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2009.05.02

「「西の京」戀幻戯」 京戀という遠近法

 周防守護・大内家は、第二十四代・大内弘世以来、京に魅入られたかのように、山口に京を再現しようと努めてきた。その執念にも似た想いは、第三十一代・大内義隆で頂点に達するが…京への戀に憑かれた武人貴族の一族の物語。

 その題名通り京都を舞台としたアンソロジー「異形コレクション 京都宵」に収録された、朝松室町伝奇の一編であります。
 室町時代において、言うまでもなく京は幕府の、日本の中心であり(そもそも室町自体は京の地名であるからして…)、京を舞台とした物語には事欠きません。そもそも、これまでに描かれてきた朝松室町伝奇においても、京は主要な舞台の一つとしてしばしば登場してきたのですが――
 しかし、いかにも凡手を嫌う作者らしく、本作で描かれるのは京は京でも京にあらず、京に憑かれた一族の生み出した「西の京」なのです。

 南北朝の争いの中で一族の本拠を山口に定めた大内弘世に始まり、陶晴賢に討たれ山口を炎に包んだ大内義隆に終わる、大内氏八代が、山口の地で花開かせた、京戀ともいうべき狂おしき想いの様が、本作では描かれています。

 初読時には、この前に描かれた「ぬっへっほふ」同様の年代記形式よりも、応仁の乱で京が失われる様を目撃した大内政弘か、あるいは幻の京を体現した大内義隆に最初から焦点を当てた方が良いのでは…という印象もありました。

 しかし、よくよく吟味してみれば、大内一族の姿を、そして西の京たる山口の姿を通して見えてくるのは、その京戀のオリジンたる京の姿であり、そしてそれはとりもなおさず、室町時代というものの姿であります。
(そう考えると、南北朝期に始まり、戦国初期に終わる大内氏、山口の運命は、何とも象徴的です)

 作者の作品にしては伝奇性・怪奇性は抑え目にも感じられますが、とりもなおさずこの遠近法的視点の妙こそが、何よりも伝奇的ではないでしょうか。

 そしてまた――作者は現在、我が国における「京」のあり方を伝奇的に浮かび上がらせる連作「魔京」を展開中ですが、「京」という存在に対する精神性の観点から、本作は「魔京」外伝とも呼べるようにも感じられるのです。


「「西の京」戀幻戯」(朝松健 光文社文庫「異形コレクション 京都宵」所収) Amazon
京都宵―異形コレクション (光文社文庫)

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