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2009.05.28

「囁く駒鳥 影与力小野炎閻魔帳」 炎一座、再びの御目見得

 二人の作者の二人の作品という変則的なスタイルの「鳳凰の珠/満願丹」に収録された「満願丹」でデビューした北町奉行所の影与力・小野炎(ほのむら)が、いよいよ単独デビューであります。
 本書「囁く駒鳥」には、「小夜町江戸暦」と表題作の中編二編を収録、宿敵・泉屋甚右衛門をはじめとする悪党の陰謀に、炎と仲間たちが立ち向かうことになります。

 その姓名から勘の良い方であれば連想できるように、炎の先祖は、平安時代、夜な夜な閻魔冥官として活動していたという怪人物・小野篁。小野神社の神主と歩き巫女の間に生まれ、生家を追われたのを幸いと、今は北町奉行・榊原主計頭の懐刀として、遊撃隊的な立場から江戸市中の怪事件を捜査するという立場にあります。
 先祖譲りか、人並み外れた感受性と優れた頭脳を持つ炎ですが、それに加えて白皙の美貌に、名刀・草薙影踏を振るえば敵する者はないという剣の達人という、ずるいほどのスーパーヒーローぶり。しかしそれでも嫌味にならないのは、元噺家の御用聞きや明き盲の借金取りといった市井の面々とも分け隔て無く付き合うその明るい心根によるものであります。
る名刀です。

 さて、収録一本目の「小夜町江戸暦」は、その炎の又従姉妹の美少女・小夜町が、炎を陥れんとする邪悪な罠の前に、窮地に陥るという一編。題名の「江戸暦」とは、事件の背景に、当時土御門家が専売してきた暦の利権が絡む故でありますが、もう一つ絡んでくるのが当時の政治情勢。

 「満願丹」でも悪事を張り巡らし、本作でも炎たちを苦しめる陰謀の首魁として登場する泉屋住友(かの住友財閥の前身ですな)の江戸の主・甚右衛門。その甚右衛門が与するのが、当時は西丸老中であった水野忠邦であり――本作の、いや本シリーズの背後には、当時の権力の頂点である老中首座の座を狙う忠邦一派の暗躍があるのです。
 本作では更に、後に江戸南町奉行として天保の改革の一翼を担った――この作品の時点ではまだ中奥番ですが――鳥居耀蔵も登場。まだ出番は少ないのですが、早くも町奉行の座を虎視眈々と狙う腹黒ぶりで、こちらの期待通りのキャラクター造形であります。

 この、当時の政治情勢と絡んだ事件設定は、二本目の「囁く駒鳥」でも健在。それもそのはず、本作で描かれるのは、忠邦以前に老中首座であった水野忠成の死が、実は何者かの暗殺であったという意外史なのですから。

 既に老耄の域にあった忠成を死に追いやったのは何者か、そしてそれはいかなる手段によるものか…その謎に挑むのはもちろん炎とその仲間たち、通称「炎一座」ですが、その果てに浮かび上がるのは、気まぐれな将軍と、それに諂う幕閣により、運命を歪められ、人間の尊厳を奪われた人々の姿。
 スーパーヒーローであっても拭うことのできない哀しみが、印象に残る作品です。


 というわけで、実質シリーズ一冊目の時点で、なかなかに盛り上がる本シリーズ(個人的には、折角の設定の伝奇的部分をもっと生かしても良いのに…とは思いますが、これはまあ仕方ないでしょう)。
 忠成が逝き、いよいよ巡ってくる忠邦の時代を前に、炎一座がいかに正義を貫くことになるのか。先行きは厳しいかもしれませんが、それをはねのける活躍に期待します。


 ちなみに本シリーズ、「満願丹」を含めて、事件のトリックが科学的…というか化学的なのがちょっと面白いところ。それほど目立ちませんが、これもシリーズの特徴と言えるかもしれません。


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