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2009.06.17

「風の陰陽師 4 さすらい風」 さらば、安倍晴明

 天涯孤独の身の上となった晴明は、平将門に招かれて東国に向かう。将門の元に身を寄せる多城丸、小枝と再会した晴明は、つかの間の安らぎを得るが、宿敵・藤原黒主の魔手は、将門に伸びていた。遂に挙兵した将門と討伐軍の戦いの陰で、陰陽師たちの最後の戦いが繰り広げられる。

 全四巻の「風の陰陽師」の最終巻は、平将門の乱を背景とした「さすらい風」。京から遠く離れた東国を舞台に、晴明の、道満の、黒主の、保憲の、多城丸と小枝の、全ての運命が絡み合い、一つの決着が描かれることになります。

 あとがきで作者自身が述べているように、平安時代の有名人である晴明と将門は同時代人。
 それゆえ、両者が共演する作品も大変に珍しいわけではありませんが、しかしその中でも本作が独特の色彩を放っている理由の一つは、作中の晴明のスタンスのユニークさです。

 他の作品では、京の人間として、すなわち朝廷の側の人間として描かれることがほとんどであり、将門とは対立する立場にある晴明ですが――しかし本作の晴明は、将門サイドに立つことになります。
 もちろん、それには本作なりの理由、己が好むと好まざるとに関わらず、将門に味方する必要があるのですが、しかしそれでも、その前提として、本作の晴明が、既存の権威に縛られ、依る人物ではないことがあります。


 が、それゆえにラストの決戦の構図が、いささかいびつなものとなってしまったのは事実。宿敵であった晴明と黒主が肩を並べ、そしてそれに対するのが、保憲と道満なのですから…
 そしてその構図が糸を引くように、結末では、あまりにも意外な「転換」が行われることになります。

 その内容についてはここでは触れませんが、なるほど、本作で描かれた晴明像を考えれば、このような結末もアリかもしれませんが、シリーズ通してを読んできた人間として、いささか寂しさが残るのもまた事実。
 本当にこれで良かったのか、本人たちはこれで満足なのか…という気持ちは、正直なところ残るのです。


 しかし――考えてみれば本作は、出自といい能力といい、(年齢的な未熟さはもちろんあるとしても)超人的なヒーローとして登場した晴明が、一つ一つそのアドバンテージを手放し、一人の人間として生きることを選ぶまでを描いてきたとも言えます。

 ヒーローではなく、一人の人間として、この世界にどう向き合うか…その果てに晴明が選んだのがこの結末であれば、それはやはり正しいものなのでしょう。
 …そしてそれは、本シリーズの想定する読者層を考えれば、きちんとした意味を持つと感じられます。


 史実や伝承を材料として巧みに織り交ぜつつ、ユニークな晴明像を描き出してみせた本シリーズの、その結びとして、印象に残る物語――そう言ってよいでしょう。さらば、安倍晴明…


「風の陰陽師 4 さすらい風」(三田村信行 ポプラ社) Amazon
風の陰陽師〈4〉さすらい風


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