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2009.06.07

「織姫かえる 宝引の辰捕者帳」 かえらない宝引の辰

 泡坂妻夫先生が亡くなってから早四ヶ月が過ぎました。本書「織姫かえる」は昨年の八月刊ですが、本書が先生の存命中に刊行された最後の単行本となります。

 「織姫かえる」はお馴染み「宝引の辰捕者帳」シリーズの六巻目。
 神田千両町の名岡っ引き・宝引の辰親分の活躍を描く短編が、表題作をはじめとして全十話収録されています。

 表題作「織姫かえる」は、七夕の頃、手習いの師匠の女房が行方不明となった一件を描く作品。
 二人静かに、事件などとは無縁に暮らしてきた師匠夫妻に何が起きたのか。女房が若い男と手を取り合って行く姿を見たという証言は事実なのか…

 ささやかな変事の背後にあるものは、やはり捕者帳的事件ではあるのですが、しかし本作の眼目は、むしろそんな変事を生み、そしてそれを包み込む人の心の綾。
 個人的には、一般によく言われるように捕者帳の人情もの的側面を強調するのはあまり感心しないのですが、本作のような形で人の情を描く作品は大歓迎であります。

 本書に収録された作品は、この表題作のように、どちらかと言えばミステリ味が薄い、あるいはシンプルな作品がほとんどで、そこは好みが分かれるかも知れません。
(個人的には、本書の収録作の語り手がほとんど同一人で、シリーズの大きな特徴である、各話毎に語り手が異なるという点が薄れていた方が残念…)
 とはいうものの、作中に生き生きと描かれた江戸の事物と、江戸に暮らす人々の想いは、本シリーズ――いや泡坂先生の作品ならではのものであると、強く感じます


 しかし、これほど味わい深いシリーズの新作を、もう読むことはできません。
 表題作では、七夕の短冊に記された句がきっかけとなって「織姫」が帰ってくるのですが――七夕に祈って帰ってきてくれるものならば、先生が帰ってきてくれるよう祈りたいくらいなのですが。


「織姫かえる 宝引の辰捕者帳」(泡坂妻夫 文藝春秋) Amazon
織姫かえる―宝引の辰 捕者帳


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