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2009.06.04

「消えずの行灯 本所七不思議捕物帖」 七不思議に理性の光を

 浦賀に黒船が来航し、世情騒然たる中、江川太郎左衛門の下で蘭学を学ぶ潤之助とその友人・釜次郎は、本所七不思議にまつわる奇怪な事件に次々と巻き込まれる。迷信の非合理性を嫌う釜次郎は、潤之助に剣の達人の今井、噺家の次郎吉とともに、七つの事件に理性と科学の光で挑む。

 有名人を探偵役とした時代ミステリは、私自身大好物なこともあってこのブログでもしばしば紹介していますが、本日取り上げる「消えずの行灯 本所七不思議捕物帖」は、その中でも特にユニークな作品でしょう。

 本所七不思議と言えば、全てを挙げられる人は少なくとも、「置いてけぼり」などは非常にメジャーな怪談ですし、しばしば時代ホラー・時代怪談の題材となっている怪談話。近年の作品でも、宮部みゆき先生の「本所深川ふしぎ草紙」などが一番に上がるでしょう。
 しかしそうした比較的メジャーな(?)怪談である本所七不思議を題材としつつも、本作が特にユニークであり見事なのは、七つの事件それぞれを、本所七不思議に絡めて成立させた上に、その謎を合理的・科学的に解明させている点でしょう。

 消えずの行灯の噂が囁かれる現場で発見された、外傷もなく死因のわからない男の死体の謎「消えずの行灯」
 送り提灯について行った娘が、次々と辻斬りに襲われるカラクリを解き明かす「送り提灯」
 潤之助の旧友の屋敷に現れた血だらけの足の正体と、辻斬り事件の謎が交錯する「足洗い屋敷」
 片葉の葦が生える場所で、岡っ引きが片足を切り落とされた死体で発見された真相を探る「片葉の葦」
 病身の女性の支えとなっていた冬でも落葉しない椎の木が、意外な事件につながる「落葉なしの椎」
 奇怪な声が聞こえる置いてけ堀と、神出鬼没の凶盗団の秘密が描かれる「置いてけ堀」
 殺人事件の容疑者が、遠くの物音を居ながらにして聞く術を使うという男だった「馬鹿囃子」

 いずれも、本所七不思議をモチーフとした事件である上に、釜次郎の推理により、事件のトリックのみならず、七不思議の謎までもが解き明かされてしまうという離れ業で、幾つかの事件の動機が苦しいのに目を瞑れば、実に楽しい作品集となっています。

 また、本書のもう一つの特長は、冒頭に述べたように、有名人探偵ものであるということであります。
 ワトスン役である潤之助は架空の人物ですが、彼と四人組で探偵活動を行う釜次郎・今井・次郎吉は、いずれも実在の人物。特に釜次郎は、特徴的な名前だけに、あああの人物か、とすぐわかる方も多いのではないでしょうか。

 彼ら探偵役のみならず、各エピソードにゲスト出演する容疑者や関係者の多くにも、歴史上の有名人が隠れています。
 登場しただけであの人物か、とわかる者あり、最後に種明かしされてあの人物だったのか! と感心する人物あり、意外な人物が意外なところで登場する多士済々の楽しさは、山田風太郎先生の明治もの的といえばいいでしょうか。

 そしてまた、こうした面々が生きているのは、幕府というフレームワークが残されながらも、黒船に代表される近代科学の産物・知識が大量に流れ込み、大きな時代の変革を予感させる幕末という時代。
 そこで、新しい時代を担う若者たちが、古き時代の産物である七不思議の謎を、ミステリとして合理的に解き明かしていくというのは何とも象徴的に感じられます。


 本作は、単に過去の時代を舞台とした作品というだけでなく、この時代でなければ描けなかったものを描いているという意味で、正しく時代ミステリと言うべきでしょう。
 実のところ、七話を通してパターンというものに拘りすぎてしまっていて、それが物語のリズムを壊している部分もあるのですが(特に、クライマックスに必ずお姉さんが居合わせるのはちょっと無理があったような…)、その辺りを差し引いても、読む価値のある作品だと思います。


「消えずの行灯 本所七不思議捕物帖」(誉田龍一 双葉文庫) Amazon
消えずの行灯―本所七不思議捕物帖 (双葉文庫)

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