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2009.06.13

「座敷の中の子 鬼ヶ辻にあやかしあり」 妖魔の姫に生を学ぶ

 生まれたときから、座敷で一人暮らす少年・幽霧。ある日、戯れで屏風絵に橋を書き足した幽霧の前に、屏風絵の中から美しい妖魔の姫が現れる。彼女と友達となった幽霧は、彼女を通じて、他人と触れ合うことの楽しさと、外の世界の素晴らしさを知るのだが…

 美しき猫の大妖・白蜜姫の活躍(?)を描くダーク・ファンタジー「鬼ヶ辻にあやかしあり」シリーズの第三巻は、これまでとぐっと趣を変えた内容。
 これまでは、極悪人の魂をこよなく愛する白蜜姫が、極悪人に苛まれる人の願いに応じて、極悪人を成敗し、魂を手に入れるというパターンでしたが、本作では、姫と一人の孤独な少年の触れあいが描かれます。

 その少年・幽霧は、人の身でありながら額に小さな角を持ち、そして人ならざる妖を見る力を持った存在。
 生まれたときから座敷以外の世界を知らず…というと、何やら陰惨なものをどうしても想像してしまいますが、望むものは何でも与えられ、自分の境遇に疑問を持つことなく、それなりに楽しく生きてきたのであります。姫に出会うまでは…

 自分と対等に接してくれる存在を知らなかった少年が、姫と触れ合う中で知ることとなるのは、自分が自分であることの尊厳、他者と共に生きることの厳しさと楽しさ、そして生きることの喜びと哀しみ――自立した存在として生きていくことの何たるか。
 それを幽霧に教えるのが、人を遙かに超えた力を持ち、悪人とはいえ人の魂を弄ぶ妖魔の姫というのは皮肉かもしれませんが、しかし、己と異なる存在に照らしてこそ、見えてくるものはあるのでしょう。

 物語的にはこれまでとは違う趣向であり、むしろかなりシンプルな構成ではありますが、それだけに、読者に語りかけるもの、作品から伝わってくるものも多いように思える作品です。

 それでいて、結末にあるどんでん返しを用意しているのも心憎いところ。
 なるほどそうきたか! と、ニヤリとさせられた次第です。
(ちなみに、本書を手に入れたらすぐにカバーを掛けて、読み終わるまで外さないことを強くお勧めします。)


 しかし…今回はシンプルな構成だけに、白蜜姫に関する描写の量も多く――つまりは、それだけ姫の魅力に費やされる文章も多いわけで、二星天のイラストも相まって、これまで以上に、姫が蠱惑的な存在に感じられることを何と評すべきか。


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