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2009.06.20

「輝風 戻る能はず」 剣の極限、殺人芸術の極致

 諸国を放浪していた土気庄三郎は、三人の弟子を連れた剣豪・諸岡一羽が、一瞬のうちに野盗たちを斬る様を目撃する。その技「稲妻の影」に魅せられて一羽の弟子として潜り込んだ庄三郎は、密かに跡目を狙う根岸兎角と組み、一羽の力の源と思われる秘薬を手にするが…

 一羽流始祖・諸岡一羽と、その三人の弟子――根岸兎角、岩間小熊、土子泥之助――のエピソードは、剣豪ファンであれば、ご存じの方も多いでしょう。ことに、癩病となった師を見捨てて蓄電した根岸兎角と、彼を追った弟弟子たちが繰り広げた争闘は、剣法というものの持つ本質的な血生臭さを濃厚に感じさせるためか、これまでもしばしば時代小説の題材となっているところです。

 本作も一羽流を題材とした作品ですが、その弟子たちが争いを繰り広げる少し前を描いているのが、凡手を嫌う作者らしいところ。何しろ、物語の導入部が、編集者時代の作者自身が興味をいだいたある言葉のことから語り始められるのだからユニークです。
 そんな本作の中心に据えられたのは、一羽の秘太刀「稲妻の影」――作中の言葉を借りれば「優れた殺人芸術にして、おぞましき黒魔術」であります。

 物語は、その「稲妻の影」に魅せられ、それを盗まんとする兵法者・土気庄三郎を主人公として描かれます。
 彼の眼前で一羽が振るった剣――それは、一羽自身も輝く風と化したかのように、文字通り瞬く間に相手を切り伏せる秘太刀。その技を手に入れるため、本性を隠して弟子入りした庄三郎は、師の体を覆ったものが癩のそれではなく、別の症状によるものであることを悟るのですが…

 先に述べたように、一羽は晩年に癩を患い、それが後の弟子たちの争いの遠因ともなっていることから、(こう言っては失礼ですが)一羽=癩という印象があります。本作はそれを逆手に取るように、一羽の「症状」の正体を全く意外なところに求め、それがクライマックスに凄まじい意味を持って浮かび上がることになる様はただ圧巻(一見オーバーな表現に見えた、冒頭のある描写が、まさに真実を突いていたのにも舌を巻きました)。
 一歩間違えればギャグにもなりかねないような超絶の決闘を真っ向から描ききった作者の力量にも、今更ながらに感心いたしました。

 剣豪ものとはあまり縁の内容に感じる作者ですが、しかしここで描かれたのは、まさしく剣の極限、殺人芸術の極致。
 作者にしか描けない剣の世界が、ここにはあります。


「輝風 戻る能はず」(朝松健 「異形コレクション アート偏愛」所収) Amazon
アート偏愛 (光文社文庫)

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