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2009.06.18

「岡っ引どぶ(続)」 やっぱり柴錬捕物帖

 飲む、打つ、買うと三拍子揃った無頼の岡っ引き・どぶの活躍を描く柴錬先生の捕物帖「岡っ引どぶ」の続編であります。
 以前に紹介した正編同様、本作もまさに柴錬先生ならでは、「柴錬捕物帖」という副題そのものの作品。季の文学や人情など知ったことか! とばかりに、捕物帖と言いつつも、伝奇性横溢の内容で、久々に読み返しましたが、今回も大いに愉しませていただきました。

 この続編も、正編と同じく、中編三編を収録。「火焔小町」「御殿女中」「京洛殺人図絵」のいずれも、怪事に出くわしたどぶが、盲目の名与力・町小路左門の命を受けて、事件の解明に挑みます。

 収録作のうち、「御殿女中」と「京洛殺人図絵」は、それぞれ江戸城大奥と京の公家の世界という、閉鎖的な世界にどぶが乗り込むという点で、正編収録の作品に共通する趣向が見られます。
 市井とは隔絶された格式と伝統が支配する場で起きる事件は、しかし、そんな格式張った世界とは裏腹の、人間の生々しい欲が生んだもの。それに挑み世界の虚栄を暴き立てるのが、俗っぽさの固まりのどぶというのは、ある意味必然かもしれませんが、これは対比の妙と言うべきでしょう。
(対比の妙といえば、「俗」のどぶに対して、「聖」と評すべき左門の組合せもまた、見事なキャラ配置です)


 …と、わかったようなことを嘯くマニア根性が完膚無きまでに吹き飛ばすのが、最初に収録された「火焔小町」の面白さ。
 本シリーズにしては珍しく――と言われるのも凄い話ですが――江戸の市井を主たる舞台にした本作の、そのスケールの大きさ、そして起伏に富んだ展開はシリーズ随一であります。

 どぶが謎めいた公儀隠密の死体を発見する冒頭部から始まり、江戸の各地を灰燼と帰す怪火、逆さ吊りで発見される三人の浪人の死体と、息つくまもなく次々と怪事件が発生。
 その背後に見え隠れするのは、急速に勢力を広げる謎の材木商、暗い陰を背負った美男火消し、そして若い武士の間で絶大な人気を誇る軍学者と、いずれも一癖も二癖もある怪人物ばかり。

 これを向こうに回したどぶの苦闘の果てに待つものは、柴錬作品でもおそらく有数の大陰謀。ラストには静かなる左門までも出陣、出し惜しみなしの一大娯楽編であります。

 この辺り、とにかく面白いのが第一だよ、理屈をひねくっている暇があったら楽しみなさい、と柴錬先生に言われているような気持ちになってきますが、とにかくこの一作のためだけでも本書を読む価値あり、と私は思ってしまうのです。


「岡っ引どぶ(続)」(柴田錬三郎 講談社文庫) Amazon
新装版 柴錬捕物帖 岡っ引どぶ〈続〉 (講談社文庫)


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