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2009.07.10

「エンバーミング」第2巻 祝福されざるカップルに約束の地は

 第1巻発売からずいぶん経ち、まだかまだかとやきもきさせられてきた「エンバーミング」待望の第2巻が、ようやく登場されました。
 この巻では、もう一人、いやもう一組の主人公と言うべきエルムとアシュヒトが登場、第1巻とは異なる角度から、人造人間と人間の新たなる物語が描かれます。

 人造人間の調整者としてヨーロッパを放浪する青年・アシュヒトと、彼と行動を共にする天真爛漫な少女型の人造人間エルム――二人の来歴と旅の理由は、連載開始前の短編版(この巻に収録されるかと思っていたのですが)で語られましたが、この第2巻に収録されたエピソード「DEAD BODY and LOVER」は、ある意味その仕切り直しと言えるかもしれません。

 ここで再びこのカップルが描かれるにあたっての趣向として物語に盛り込まれたのは、もう一組の祝福されざるカップル――富豪の息子フィリップと、バーの女給アザレア――と、彼らが目指す約束の地「グレトナ=グリーン」。
 イギリスとスコットランドの国境の町・グレトナ=グリーンとは、本書の中で詳しく述べられていますが、簡単に言えば、厳格な当時のイギリスの婚姻法により結婚を妨げられたカップルが、制限の緩やかなスコットランドで結婚するために向かった地であります。

 フィリップとアザレアは、不幸かつ些かドラマチックな運命に見舞われてはいるものの、あくまでもごく普通の人間。そんな二人が、エルム、そしてアシュヒトと出会ったことにより二人が生きる人外の戦いの世界を覗き――そしてその中で、その戦いの中にある、極めて人間的な二人の想いを知ることになります。

 ここで作者の構成の妙に感心させられるのは、キャラクターも境遇も全く異なる二つのカップルを描きつつも、両者を対比させることにより、より一層エルムとアシュヒトのキャラクターを掘り下げている点です。
 祝福されざる――いや、アシュヒトの目的を考えれば、決して結ばれざるカップルであるエルムとアシュヒト。そんな彼らもまた、いやそんな彼らだからこそ、グレトナ=グリーン――困難を乗り越えて成就される愛の象徴――を希求する者なのだと気付かされるとともに、その過酷で、しかしどこか(そんな言葉が適切かわかりませんが)美しさを感じさせる二人の姿に、大いに心を動かされました。

 ちなみに、かのメアリー・シェリーの「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」においても、「花嫁」「結婚」が大きな意味を持っていたことを考えると、また一層、今回のエピソードは味わい深く感じれるのですが、いかがでしょう。
(もっとも、本作でその要素を担うのは、むしろ未だ登場しないもう一人の主人公ジョン・ドゥーだとは思いますが…)

 そして伝奇ファン的には、そのメアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」が、巧みに本作の中に取り込まれ、作品世界の拡大に一役買っているのは、これはもうたまらない仕掛けであります。


 そして物語は魔都ロンドンへ――
 ヒューリーが倒すべき八体の機能特化型人造人間――しかもその中にはエルムが!?――の存在が語られるなど、少年漫画的盛り上がりもありますが、それだけでなく、本作ならではの、本作でしか描けない「人間」ドラマにも期待せざるを得ません。


エンバーミング -THE ANOTHER TALE OF FRANKENSTEIN-」第2巻(和月伸宏 集英社ジャンプコミックス) Amazon


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