「盗角妖伝」 あやかしと人の間に希望を見る
さいころの付喪神・乙音を相棒にいかさま賭博で暮らす少年・源太は、妖しげな女との勝負に敗れ、乙音を奪われてしまう。女を追う源太は、同じ相手を追う赤毛の少年・朱丸と出会うが、彼は片方の角を奪われたあやかしだった。衝突を繰り返しながら旅する二人の行く手には次々と危機が…
「はんぴらり!」「鬼ヶ辻にあやかしあり」シリーズで活躍する廣嶋玲子先生が、室町時代の末期を舞台に描いた作品ということで手に取った本作。奇怪な妖術使いの女にそれぞれ大事なものを奪われた二人の少年の冒険を描いた、なかなか面白い和風ファンタジーであります。
乱世を逞しく生きる人間の少年・源太が奪われたのは、可愛らしい女の子の姿と心を持ったさいころの付喪神・乙音。
異界からやって来たあやかしの少年・朱丸が奪われたのは、自分の二つの角のうちの一つ(それをもってタイトルが「盗角妖伝」)。
生まれも育ちも、種族すらも違う凸凹コンビが、目的を同じとする旅の中で出会い、衝突を繰り返しながらも少しずつ成長していく…本作は、そんなバディもの的側面を強く持った娯楽作です。
しかし、そんな中でも、人の心の中に黒く蟠ったものを真っ正面から描いているのが、いかにも作者らしいところ。
旅の途中で二人が出会う様々な障害、そして何よりも二人の大事なものを奪った妖術使いの女・あやめは、そんな人間のダークサイドを体現したような存在です。
(その他、脇役ではありますが、人の悲しみや苦しみばかりを好んで描く地獄絵師など、まさに廣瀬先生らしいキャラかと思います)
同じ人間同士であるのに…というのは何ともやるせないことではありますが、しかし闇あるところ光あり。
ぶつかりあいながらも、やがてお互いを認め合うようになっていく源太と朱丸の姿からは、あやかしと友情を交わすこともできるのだから、きっと…と、本作を読んでいるうちに自然に感じることができます。
そしてまた、朱丸とあやめの対決の果ての、残酷で同時に優しい結末は、人間性というものへの一つの希望の現れと見ることもできるかもしれません。
内容的にはかなりシンプルで、物語展開も一本道ではあるのですが、手抜きのない描写とキャラ立ちで一気に読ませる本作――二人の、仲間たちの冒険がこれ一本で終わりだとしたら、実に勿体ないことです。
「盗角妖伝」(廣嶋玲子 岩崎書店) Amazon
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