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2009.07.30

「よわむし同心信長 うらみ笛」 信長殿の活躍、スケールアップ!

 信長マニアの町方同心の頭の中に、信長本人が宿った!? と実にユニークな設定の「よわむし同心信長」シリーズの第二弾は、短編四話という構成こそ同じながら、歴史上の御家騒動を背景とした事件、織田家を舞台とした事件と、内容の方は確実にパワーアップしています。

 相変わらず職場では「よわむし信長」扱いの南町奉行所同心・信藤長次郎。しかしある事件がきっかけで自分だけに聞こえるようになった信長の声に励まされ、町方同心としての自覚も能力も徐々に育ってきて、信長に振り回されながらも――八丁味噌の味噌汁を飲まされるとか――それなりに充実した毎日を送っていたところに続発する大事件に巻き込まれることになります。
 一カ所で発見された数十人分の死体、奉行所の裏金を担当していた与力の切腹、天童藩邸から持ち出されたという織田家の秘宝、そして勘定吟味役への暗殺予告…一つ一つが南町奉行所を揺るがしかねない事件の数々の背後には、謎の虚無僧の姿が――

 前作「天下人の声」は、キャラクター描写の点で大いに楽しめたのですが、ちょっと残念だったのは、信長公が挑むには些か事件のスケールが小さかった点。
 それが本書では、幕府の老中人事にまで影響を与えた御家騒動・仙石騒動を背景とした事件や、信長の次男・信雄の血を引く出羽天童藩を舞台とした事件など史実に絡んだ事件ばかり――最後のエピソードに登場した勘定吟味役が、実は後の…というのも楽しい――で、スケールアップした「信長殿」の活躍を楽しむことができました。

 特に「天童藩の秘宝」は、織田信雄が遺したという戦国時代からの秘宝の在処を巡る騒動の中で、信長の信雄に対する複雑な親心が垣間見られるのが味わい深い一編。
 暗愚で信長から親子の縁を絶たれかかったと伝えられる信雄に対する信長の反応は、予想通りというか期待通りというか、まことに手厳しいのですが、それがラストで明かされる秘宝に触れて垣間見せる父としての情は、ベタではあるのですがやはりグッとくるものがあります。

 そして、事件がスケールアップするのに対して、負けずに成長していく長次郎の姿も楽しい。
 前作では、ほとんど信長が探偵役で長次郎はワトスン役に甘んじていたのですが、今回は遂に信長も欺かれた敵の奸計を見破り、自分の判断で事件を解決してみせるという大金星ぶりを見せてくれます。
 金星といえば、許嫁をちゃんとデートに誘えたというのが最大の金星かもしれませんが…

 また本書では、各話を通じての長次郎のライバル――と言っても、先方が勝手に長次郎をライバル視しているのですが――も登場。そちらに描写が割かれたおかげで、信長の出番が減ったのは残念ですが、こちらの展開の方も、これから期待できそうです。


 正直なところ、荒削りな部分もまだありますが、私個人としては、文庫書き下ろし時代小説の中で大いに気になるシリーズであることは間違いありません。


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