「鈴の音」 「音」の途方もない存在感
加賀の寂しい漁村に寄宿する青年武士・波之進は、土地の廃屋に住みついた老武士・真木頼母と知り合う。周囲に高い塀を巡らすなどの奇行を繰り返す頼母だが、同時に鈴の音をひどく恐れていた。その娘と恋人になった波之進は、頼母の奇行の理由を知ろうとするが…
最近の貸本漫画再評価の流れで復刊された作品の一つが、この水木しげる先生の「鈴の音」です。
無数の鈴を背景にした即身仏という、いかにも恐ろしい表紙が印象的な作品ですが、もちろん内容の方も、いかにも水木先生らしい圧倒的な画力が生み出す恐怖の雰囲気が、心に残る作品です。
聞くところによれば本作は、「妖棋死人帳」(「怪奇死人帳」の原型)、「火星年代記」に並ぶ、水木先生の三大傑作怪談の一つとのこと。
鈴の音にひどく怯える真木頼母という老武士が、徐々に追い詰められ、そしてその果てに破滅する様が、徐々に恐怖のレベルを上げながら描かれていく本作は、しかし、ストーリーに幾つかの大きな山谷が存在した他の二作に比べれば、かなりシンプルな構成と感じられます。
作中で語られる怪異の根元も、奇想天外というほどではなく、その意味では、長編としてはかなり地味な作品と言えなくもありません。
が――それが作品自体のクオリティを落とすものでないことは言うまでもないことです。
水木先生の画力については今更言うまでもないことですが、そのハイパーリアルともいうべき緻密な書き込みは、本作においても健在。
本作で描かれる怪異の先触れとして描かれる不気味な鈴の音。それはもちろん画として直接描けるものではありませんが、しかし本作の画は、単なる擬音の書き込みに過ぎぬ「音」、途方もない存在感を与えることに、成功していると思えます。
本作のクライマックス――頼母にとって運命の日となる十月五日の晩、頼母の屋敷に向かってひたひたとやって来る三つの影…その、凄涼とも悽愴ともいえる画のためだけでも、本作を読んだ価値がありました。
もちろん、そこまで言い切ることができるのは、私がマニアだからこそということは否めず、決して安いとは言えない本作を、万民にお勧めできるとはやはり言い難いのですが…それでもなお、同好の士には一度手に取ってみていただきたい一冊です。
「鈴の音」(水木しげる 小学館クリエイティブ) Amazon

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コメント
僕も水木先生大好きです。水木先生は時代劇にも名作多いですよね。「怪談幻行灯」「古墳大悲記」あたりの鬱展開が印象に残っています(鬱展開好きですいません)。
投稿: 鱧 | 2009.07.19 22:01
まだまだ水木作品については未熟者なのですが(ご指摘の二作品も未読です)、確かに時代ものにも印象的な作品が多いですね。
怪異や恐怖を描きながらも、どこかそれに対する作者の憧れを感じさせるのが、水木作品らしいなあ…と思います。
投稿: 三田主水 | 2009.07.21 01:33
水木先生の時代物は翻案ネタが多く、女性読者受けを狙って美男美女の悲恋を描いているせいでしょうか、普段の水木節とは違った独特の雰囲気が出ているように思います。
投稿: 鱧 | 2009.07.23 01:17
翻案ネタ多いですよね…この作品もどこかで見たような内容だと思っているのですが
絵柄が小島剛夕調なのも大きいでしょうね>独特の雰囲気
投稿: 三田主水 | 2009.07.24 01:04