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2009.07.08

「名人地獄」 名人ゆえの受難劇

 鼓の音とともに現れ、大金を奪う鼓賊を追う捕物名人の郡上平八。色恋の縺れから追分名人の兄を殺した侍を追う馬子の浅間甚内。能の名人ながら退屈の虫に取り付かれ、放浪する観世銀之丞。江戸に、信州追分に、銚子に…名人芸の持ち主ゆえに苦しむ三者の運命は、意外な形で交錯する。

 国枝史郎の名作というと、まず上がるのが「神州纐纈城」「蔦葛木曾棧」「八ヶ嶽の魔神」の三大作品かと思いますが、伝奇性という点でそれらに一歩譲るものの、エンターテイメント性、小説としての結構という点においては、本作「名人地獄」は、勝るとも劣らぬ作品であります。

 江戸時代後期の信州追分、江戸、銚子を舞台に、仇討ちあり謎解きあり、人斬りあり怪建築あり…全編ガジェットとキャラクターを詰め込んだその内容は――こう言い方はまことに恐縮ですが――いつもの国枝節そのものではあります。
 しかし本作は、国枝作品の長所であるまさしく奔馬の如きイマジネーションはそのまま、国枝作品の短所である物語の結構の崩壊には至っていないのが目を引きます。

 それは、本作の柱として名人の芸と、その芸ゆえに受難する名人の姿が描かれているためでしょう。
 本書の題名である「名人地獄」とは、狭義では、作中に登場する芝居の題名――江戸に出没する鼓賊、実は鼠小僧の和泉屋次郎吉が、己を執拗に追う捕物名人・玻璃窓の郡上平八を嘲笑うために上演した芝居の題名であります。

 しかしながら、その言葉が広義には、作中に登場する名人たちの受難劇に重なり合っていくのが本作の巧みなところ。それぞれの名人芸ゆえに災いを招き伝奇的争闘に巻き込まれていく名人たちを基点に人間曼陀羅を描き出し、そしてその受難の終焉に物語を集束させていくことによって、上記の通り、国枝節の面白さはそのまま、結末を投げ出すことなく、きちんとエンターテイメントとして完結させている点は、大いに評価できます。


 国枝作品としてのエッジには欠けるかもしれませんが、よくできた時代エンターテイメントして、安心して楽しめる作品であります。


「名人地獄」(国枝史郎 未知谷「国枝史郎伝奇全集」第2巻ほか)

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