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2009.08.15

「リーンの翼」に鎮魂の姿を見る

 岩国に住む青年エイサップ・鈴木は、友人が起こしたテロに巻き込まれた中、海から突如現れた戦艦に乗っていた少女・リュクスと出会い、リーンの翼の力により異世界バイストン・ウェルに召喚される。エイサップは、リュクスの父であり、かつてリーンの翼の持ち主であった元日本軍人のサコミズ王が、地上侵攻の野望を持つことを知り、これに対峙する。

 突然ブログの趣向が変わったように見えるかもしれませんが、夏休みということでご勘弁下さい。三、四年前に放送された富野由悠季監督によるアニメーション作品であります。

 本作は、監督の作品におけるバイストン・ウェルもの――魂の故郷と呼ばれる異世界バイストン・ウェルを舞台としたファンタジー作品――に属する作品であり、その多くに共通する、(現代人の)青年が突然バイストン・ウェルに召喚され、聖戦士として戦乱に巻き込まれるという基本パターンに忠実な作品ではあります。
 そんな本作の特徴と言えるのは、主人公の鈴木青年が聖戦士として対峙するのが、かつての聖戦士(さらに言えば小説版「リーンの翼」の主人公)であるサコミズ王であること、いわば世代の相克の構図があるということでしょう。そしてそれはいかにも富野監督らしい題材であります。

 が――本作では、ストーリーが進むにつれて、物語の中心が完全にサコミズ王に移り、主人公が脇に押しやられた形となり、世代の相克という当初の印象は薄れていきます。
 この点については、放送当時も違和感を感じた方も多かったようですが、しかしこの主客転換の構造、ある古典芸能に当てはめてみると、違和感なく見えてくるように、私には思えます。

 すなわち、鈴木君をワキに、サコミズ王をシテ(主役)に――能として考えると、これが実にしっくりくるのです。

 本作の後半部では、時空を越えた鈴木君とサコミズ王が、第二次大戦末期の日本の有様と、サコミズ王の過去を追体験した果てに、現代の地上に帰還し、そこでアメリカに精神を毒された(と彼には見える)現代日本の姿を見て狂乱したサコミズ王は、大暴走することとなります。
 しかしその先の戦いの中で、己の苦しみを知り、死を悼む者の存在を知った王は、鎮魂され、安らかに眠りにつくというラストを迎え――ここまで来て、我々は、本作の主題が「鎮魂」にあったかと気付くことになります。

 能の演目には、武人の亡霊がシテとなり、ワキに対して、己の生前の戦いの有様と、死後もなお修羅道に苦しむ様を語る「修羅物」と分類されるものがあります。
 本作の後半の物語の流れは、鈴木君とサコミズ王の関係、そして何よりサコミズ王の心情からみれば、そのままこれに重なって見えてはこないでしょうか。

 元々、亡霊が数多く登場する能、特に敗者の亡霊を描くことの多い修羅物は、鎮魂という意味合いを強く持つ芸能であります。
 特攻の途中、バイストン・ウェルに落ち込み、疑似的な死を迎えて(かの地が、輪廻する魂の故郷と称されていることは示唆に富んでいます)生きながら「亡霊」となったサコミズ王の、そして彼が共感を寄せるあの戦争で命を落とした者の鎮魂を描くに、近年芸能というものの力に感心を寄せている富野監督が、この能の構図を用いても、不思議はないと感じられるのです。
(このアニメ版と小説版ラストの最大の矛盾点も、この観点からするとある程度説明できる…というのは牽強付会に過ぎるかしら)

 さらに言えば、世代の相克から魂の救済という構図の変化には、富野監督の作家としての視点・興味の変化が現れているように感じられるのも、興味深いところであります。


 もちろん、これは私の思いこみ、単なる偶然の一致やもしれず、また、本作を構成する要素は、それ以外にも多々あることは言うまでもありません。
 しかし意図していたにせよ、せざるにせよ、戦争の死者・敗者の鎮魂を描く物語の形式が、時を越え、ジャンルを越えて重なり合って見えるのは、何とも興味深いことであると同時に、イデオロギーを越えた戦争論の一つの可能性をも、感じることができると――そう私は感じている次第です。


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