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2009.08.20

「伊平次とわらわ」 生者と死者のスキマに

 墓場のはずれに一人暮らす墓守の青年・伊平次は、育ちのせいか体質か、亡霊や化け物など、この世のものならぬものが見えてしまう。そんな伊平次の前にある日、自分をわらわと呼ぶ野良犬が現れた。中納言の姫だと自称するわらわと、伊平次は奇妙な共同生活を送ることに。

 生きている人間にとって一番身近で、一番縁遠いのは「死」ですが、そうだとすれば、死者が葬られる墓場もまた、同様なのでしょう。
 そんな墓場を主な舞台としたユニークな連作短編が、本作です。

 時代はおそらく平安の頃、何故か人外に好かれやすい青年の伊平次と、見かけはアホ犬で自称姫君のわらわが、亡霊やら化け物やらと出会って…というのが毎回のパターン。
 片や墓守だけに(?)怪異には慣れっこ、片や犬になっても変わらぬ姫君気分というコンビなだけに、どこか呑気な空気が漂うのが、何とも愉快なのです。

 しかし、だからといって、物語そのものが呑気で、ユーモラスなものとは限りません。
 確かに死んでいるのにうめき声を上げる死体、いずこから現れて町を密かに埋め尽くす黒い餓鬼の群、貧しさに苦しむ者を化け物に変える男…
 そんな、何とも「黒い」キャラクターやエピソードが、本作には幾度となく顔を見せます。
(冷静に考えれば野良犬に姫君の霊が憑く、というのも十分に黒い設定ではありますが)

 しかし、そんな陰湿さや不快さが感じられないのは、もちろん坂田先生の絵柄によるところも大きいのですが、それ以上に伊平次のキャラクターが大きいと言えるでしょう。

 生者と死者のスキマにいると自分を称する伊平次は、それ故か、生者と死者の、さらに化け物の、それぞれの存在を否定せず――そして何よりも人が生きることを肯定します。
 人間も亡霊も化け物も、みなこの世に(?)存在する者として、それぞれの分を守る限り等しく受け入れ、それだからこそ、互いが分を越えることに嫌悪感と怒りを見せる…そんな伊平次が中心にいるからこそ、安心して呑気な気分にも浸れるということなのでしょう。


 ちなみに本作は、時代劇ファンの大大先達である近藤ゆたか先生が「コミック乱ツインズ」誌に連載されている「時代劇百科」で取り上げていたことで知ったもの。
 あまりに面白そうであったため、臆面もなくこのブログでも取り上げさせていただいた次第です。

「伊平次とわらわ」(坂田靖子 潮漫画文庫全2巻) Amazon

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