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2009.08.27

「水木しげる 奇談 貸本・短編名作選 異形の者・吸血鬼」(その3)

 「奇談 貸本・短編名作選」の感想ラストです。

「深雪物語」

 とある山中の洞窟で見つかった絶世の美女。着ていた衣を奪われた彼女は人里に連れてこられ、多くの男たちを魅了する。最後まで残った五人の求婚者に彼女が課した奇怪な試験とは。

 本書に収録された作品の中で最もページ数の多い本作は、一口で言えば羽衣伝説+竹取物語
なのですが、しかしそんな表現では言い表せないほどの奇怪でおぞましい物語であります。

 物語の中心となるのは、天女が求婚者たちに課す試験とその顛末であります。
 大商人・美男役者・剣豪・大納言といった、それぞれに長所を持つ者たちに対して、天女が様々な宝を持ってくるよう求めるのは、竹取物語そのまま…しかし、その宝物の内容と、それが求婚者たちにもたらす結末は、遙かに残酷かつ理不尽なもの――

 何故そんな結果となるのか、そして何故彼らがそのような目に遭わなければならないのか――そんな疑問に対する答えは一切なく(いや、後者には一応の答えはありますが、しかし…)、次々と繰り広げられる地獄絵図にただただ唖然としているうちに物語は結末を迎え、呆然とした心持ちでこちらは取り残されるのでした。


「妖怪長屋」

 妖怪を祀ったほこらがある甚兵衛長屋。その土地に目を付け、様々に陰謀を巡らせて住民を追い出しにかかる悪徳商人と寺社奉行の前に現れたのは…

 巻末に収録された本作は、ちょっとだけ変わった妖怪もの。
 地上げに苦しむ長家を守って戦う訳ありの浪人剣士…というと市井ものの時代小説のようですが、その長家に妖怪までも住み着いていたことから、大騒動に繋がることになります。

 この辺り、何となく大映の妖怪映画を思い起こさせますが、本作の妖怪たちは、あくまでも人間の思惑とは無関係に、自分たちで好きに暴れまわっているのが面白い。
 悪人…というより自分たちの敵対者には容赦しないのが、人間とは異なるメンタリティの持ち主なのだな、とむしろ嬉しくなります。

 ちなみにこの妖怪たち、いま目にすることのできる水木妖怪とはちょっと異なるビジュアルで描かれているのも、ちょっと興味深いところです。


 以上、収録作品のうち、特に印象に残った作品を取り上げましたが、これだけでも、本書が実にバラエティーに富んだ作品集であることがご理解いただけるかと思います。
 これだけの作品集が、文庫本で安価に手に入るというのは、全くもってありがたいお話です。

 なお、本書の表紙で、長く伸ばした首で「奇談」の文字を描いているのは「妖怪長屋」に登場するろくろ首。中扉でのアレンジも面白く、実に洒落たデザインで気に入っています。

「水木しげる 奇談 貸本・短編名作選 異形の者・吸血鬼」(水木しげる ホーム社漫画文庫) Amazon


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