「赤い歯型」 化外が生じるのは…
兄弟子・養叟宗頤と共に、前関白・二条持基に呼び出された一休。婚礼を控えた持基の娘の肌に、幾度となく何者かの歯型が付けられるという怪事の解決を依頼された一休らは、それぞれの立場から、歯型の謎を解き明かそうとするのだが…
お馴染み「異形コレクション」は「心霊理論」に収録された朝松健先生の一休シリーズの一編。「心霊理論」というテーマに沿い、姫君の肌に残された歯型の怪に対して、一休をはじめとする登場人物が、それぞれの「理論」を展開し、意見を戦わせるという趣向であります。
あたかも透明人間が噛みついたかのような歯型の怪というのは、ミッチェル&リカードの「怪奇現象博物館 フェノメナ」でも現実の(?)事例が紹介されていますが、いかにもいやらしく、また逃げ場のない恐怖を感じさせる存在。
そんな怪に対して、先に持基に招かれていた怪しげな修験者は奥州の妖怪の存在を、養叟は特異な皮膚病を主張しますが、一休の言葉は、そして何よりも彼らの眼前で起きる現象は、その理論を次々と否定していきます。
(ちなみにここで挙げられた奥州で蒙古起源の妖怪が語られているという話は、私も実際に母に聞いており、ちょっと懐かしくなりました。これは全く余談ですが…)
そして一休が語る怪の真実とは…これは正直なところ、超常現象・怪現象に興味のある方であれば、予想の付く理論であるかと思いますが、しかし、その先に展開される結末は、こちらの想像を遙かに上回る凄惨なもの。
人の悲しみとは、負の情念とは、これほどまでの力を持つものか――これまで展開された理論はあくまでも理論に過ぎぬ、と嘲笑うように描かれる地獄絵図に驚かされるとともに、さらにその先にもう一段加えられた容赦ない結末に、何とも思い気持ちにさせられました。
なるほど、化外は人心より生じるもの…と皮肉に呟きたくもなるものです。
そんな感想の後に何ですが、登場するたびにイヤな奴ぶりがアピールされる養叟に、今回えらく可愛いシーンがあって吹き出しそうになりました。
「赤い歯型」(朝松健 光文社文庫「異形コレクション 心霊理論」所収) Amazon

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