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2009.08.08

「本所お化け坂 月白伊織」 マイスターの新境地!

 普通の人間には見えないという本所お化け坂――その上にある第六天社の百怪寺に住む冴えない侍・月白伊織と息子の太郎は、この世のものならぬ世界に通じ、妖を討つ力を持った不思議な人物。魔界より逃れたモノカミに苦しめられる人々を救うため、今日も伊織の宝刀・神咒信国が唸る!

 このようなブログを運営している人間が今更言うのも笑止ですが、今現在、朝松健ほど、魑魅魍魎・妖怪変化が登場する――そしてそれらとの対決を描いた――時代小説をコンスタントに発表している作家はいないのではないかと感じます。
 本作は、その朝松健の久しぶりの単行本にして新シリーズ。室町時代を描くことがほとんどだった作者にとって新境地とも言える、江戸時代を舞台とした連作短編集であります。

 が…ゴーストハンター時代劇のマイスターたる作者が描く本作が、ただの作品であるはずがありません。
 本作でゴーストハンター役を務めるのは、非在の坂・本所お化け坂の第六天社は百怪寺に棲む浪人(?)月白伊織。普段は長い顔に無精髭の冴えない男ですが、無辜の人々を苦しめるモノカミ――零落し、邪な存在とかしたかつての神々――を前にすれば、途端にその姿を凛然たるものに変え、真っ向から妖と対決するヒーローに変じる人物であります。
 そしてその息子にして相棒は、彼の息子と称する、少女と見紛うばかりの美少年・太郎ことミエタロウ。彼もまた、モノカミに対するに――その異名(本名?)が示すように――姿無き怪異を見破る「目」を操る、異能の持ち主です。

 そんなある意味規格外のコンビが対することになるモノカミとそれが引き起こす怪異もまた、ユニークな存在。
 自分にしか聞こえない悪意を込めた囁きを繰り返す姿無き妖、人の精気を吸い取る画の中の美女、行き当たった者に不幸を与える死神…素材だけを見れば、さして珍しくないようにも感じられますが、そこで引き起こされる怪異の、その奇怪な容貌の、そしてそれと伊織の争闘の描写は、本作ならではのものとして、巧みに料理されています。
 特に、伊織が画の中の美女と対峙する「すみ姫さま」のクライマックスの戦いは、絵画怪談の持つ静的なイメージをひっくり返すような奇想天外なもので、嬉しい裏切りを受けた気分であります。


 しかし、大いに楽しませてもらいつつも、正直なところを言わせていただければ、まだまだ食い足りない、という印象があります。
 伊織とミエタロウにはもっともっと暴れて欲しい、奇怪なモノカミと対決して欲しいと、特に分量の点で――そしてこれは作者の責任ではないとは思いますが――つくづく感じるのです。

 その気になればいくらでも転がし、脹らませていけそうな伊織の物語(例えば、あの平賀源内がいつ伊織と知り合い、認めるに至ったのか…考えるだにワクワクします)。そんな伊織と再び出会うことができるよう、祈りたいと思います。


 …やっぱり祈る相手は第六天かしら。

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