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2009.08.26

「水木しげる 奇談 貸本・短編名作選 異形の者・吸血鬼」(その2)

 水木しげる先生の「奇談 貸本・短編名作選」紹介の続きです。

「壁ぬけ男」

 江戸で、一瞬のうちに生気を吸われ老人と化して死ぬ者が続発し、事件を追う与力の家には、壁をぬける奇怪な老人が現れる。与力は、犯人の正体に恐ろしい疑惑を抱くが…

 一種の怪奇探偵小説とも言うべき本作、実はこれまで名前を聞くのみで未読だったのですが、個人的には本書で一番印象に残った作品です。

 柳の木に触れた少女が、机に触れた浮世絵師が、一瞬にして老人と化して死ぬというショッキングな、そして被害者の状態以外は全く共通点のないミステリアスな事件に始まる冒頭部。 そして物語の焦点は主人公の与力自身の近辺に移り、与力の屋敷に謎の「壁ぬけ男」が出現するというクライマックスから、全ての謎が一点に集約され、意外極まりない真相と、もの悲しい結末に繋がっていく――その構成はなかなかによくできていて、ボリューム的には中編ながら、相当の満足感があります。

 そして何よりも驚かされたのは、一連の怪事件の背後にあった禁断の知識が、オカルト史上有名なあの人物のものだったということであります。
 いや、本作の内容を見るに、あの人物と同名異人なのでしょうが、モデルであることは明確でありますし、ここでこの名前を持ってくるか、という意外性と、水木先生の興味の幅の広さに感心いたしました。

 そして…超人の力を身につけた壁ぬけ男が、人間的な恋慕の情から己を滅ぼす結末には、東宝の変身人間シリーズを思わせるものを感じた次第です。


「へびの神」

 信州の山中に、自らを三百年に死んだ諏訪頼重と称する「へびの神」が現れた。自分を裏切った板垣左馬介に対し恨みを晴らすというその言葉通り、板垣家の末裔が怪死を遂げた…

 様々な妖怪変化が登場する本書ですが、その中でも本作の主人公(?)へびの神は、かなり奇怪な部類に入るでしょう。
 へびの神、とは言い条、その姿は蛇とはほど遠く、何やらぬらぬらとした体に二つの巨大な目を持った、まさに化け物としか言いようのない存在なのですから…

 そしてそれが単なる怪物でも本当の神様でもなく、何と武田信玄に滅ぼされた諏訪頼重の怨霊という伝奇展開には仰天させられます。

 しかし、最後まで読んでみれば、心に残るのは恐ろしさよりもむしろ、このような姿になってまで…という人間の業に対する悲しさ、空しさの思いであります。
 途中、へびの神が仇の家の縁側で、頬杖をついて(!)襲いかかる頃合いを待つ場面があるのですが、この辺りの怪物の人間くささがまた、不思議な余韻を残すのです。


もう一回続きます。

「水木しげる 奇談 貸本・短編名作選 異形の者・吸血鬼」(水木しげる ホーム社漫画文庫) Amazon


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