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2009.09.12

「Dの魔王」第1巻 漫画ならではの個性、もう一枚のジョーカー

 つい先日、続編「ダブル・ジョーカー」が刊行され、書店でも正続併せて平積みされている柳広司「ジョーカー・ゲーム」。
 その霜月かよ子による漫画版「Dの魔王」の第一巻も、ほぼ同時期に刊行されました。

 原作「ジョーカー・ゲーム」は、日中戦争開戦前後の時期を舞台に、伝説的なスパイであり、「魔王」の異名を持つ結城中佐によって設立されたスパイ養成学校「D機関」のスパイたちの活動を描いた短編集。
 「D機関」のモデルである陸軍中野学校は、これまでも――フィクションを含めて――様々な場で描かれていますが、本作は結城中佐という特異な人物を背景設定の中心に置くことにより、これまでの作品とは一風変わった味わいを生み出しています。

 さて、この漫画版第一巻に収録されているのは、「ジョーカー・ゲーム」と「幽霊」の二篇。
 参謀部の青年将校の視点から、D機関と「魔王」の特異な姿と、誰が味方かもわからぬ過酷なスパイの活動のあり方が描かれるシリーズ第一作「ジョーカー・ゲーム」。
 テロの首謀者を疑われる英国総領事の懐に潜り込んだD機関の青年の活動を描く「幽霊」。
 どちらも、原作の面白さは忠実に再現しつつも、漫画としての個性も示した、なかなかよくできたコミカライズと感じます。

 特に「ジョーカー・ゲーム」は、原作では錯綜していた時系列を整理して描くことにより、本編の主人公・佐久間の心情の変化を――連載漫画として――より明確にと描き出すことに成功していると感じます。
 また、佐久間の熱血ぶりの強調は、漫画的ではあるのですが、D機関の面々との温度差を際だたせるとともに、その相克を越えた結末に、一種の爽快さを与えていると言って良いのではないでしょうか。
(もっとも、この辺りはいささかドラマチックすぎる、センチメンタルすぎると感じる原作ファンの方もいるかと思いますが…)

 もう一編の「幽霊」の方は、原作のほぼ忠実な漫画化ではありますが、ラスト数ページの描写は、漫画ならではの、漫画でなくてはできないものであり、気に入っています。

 原作が、心理戦の要素も強いミステリだけに(上で書きそびれましたが、「ジョーカー・ゲーム」のトリックは、あの時代でならではの、あの時代でなければ成立しない、まさに「時代ミステリ」であります)、連載漫画化というのはなかなか難しいのではないかとも感じますが、本書はその点をクリアしつつも、漫画版ならではの個性を見せたもう一枚のジョーカーと読んで差し支えない佳品かと思います。

「Dの魔王」第1巻(霜月かよ子&柳広司 小学館ビッグコミックス) Amazon

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