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2009.09.29

「シグルイ」第13巻 怪物の怪物たる所以

 まだまだ続く「シグルイ」、第13巻は…というかこの巻も、二龍激突の前の嵐の前の静けさと言ったところ。しかしここにきて、藤木の怪物たる所以がいよいよ見えてきた感があります。

 駿河城御前試合を控え、それぞれに暮らす藤木と伊良子。伊良子が城内でも着々と地歩を固めていく一方で、藤木は剛直すぎる言動で、月岡雪之介や笹原修三郎ら――言うまでなく原作の他の短編の主人公たちですが――から持て余し者とされる有様…

 ここで二人の生き様がくっきりと現れた感がありますが、しかしそんな中、本作の影の主人公とも言うべき駿河大納言忠長の存在が照らし出すこととなったのは、藤木の一種の異常性であります。


 武士道残酷物語として描かれる本作において、主君が――そしてそれが日本全体の主である徳川家の者であればなおさら――絶対の地位にあることは、今更言うまでもありません。

 本作で描かれた幾多の悲劇もまた、その封建社会の構造ゆえのもの。この巻でも、本作ではおそらく数少ない常識人である笹原までもが、主命の下に理不尽極まりない行いを強要される様が描かれます。

 そして伊良子もまた、得意の巧言が忠長には通じず、ほとんど僥倖に近い形で命を拾う有様…いや、あの魔人・虎眼先生ですら、権力の前にはひたすら媚びへつらうしかなかったのですから、これはむしろやむを得ないと言うべきかもしれません。

 しかし――ひたすら伊良子との再戦に向け臥薪嘗胆、心技を練る藤木の姿からは、そのような封建社会の軛を容易に超えかねないものが感じられます。
 本書の最後のエピソードに描かれた藤木の技と、それを繰り出さしめた覚悟からは、伊良子を倒し、虎眼流を再興するためには、忠長の御前であっても、異常の技を用いることをためらわぬであろう、彼の異常な精神のありようが感じられるのです。

 「生まれついての士にござる」と語った藤木が、このような境地に達してしまったのは何とも皮肉ではありますが、「城勤めは無理」などというものを遙かに超えてしまった彼が、驕児・忠長の前に出たとき、どのような態度を示すのか――これは大いに気になります。
(ニッコリへつらっちゃったりしたら、それはそれでショッキングですが)

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