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2009.09.03

「鏡花百物語集 文豪怪談傑作選特別編」 古き良き大正の怪談会

 非常にユニークな試みであるちくま文庫の「文豪怪談傑作選」の中でもさらにユニークなのが、このブログでも以前に紹介した「百物語怪談会」でした。
 文豪たちが寄り集って実話怪談に興じる様を描いたその好著の続編・姉妹編と言うべきが、この「鏡花百物語集」です。

 本書の中心となっているのは、泉鏡花を中心として開催された以下の怪談会であります(カッコ内は怪談会の模様を描いたドキュメント等の題名)。
・大正三年にごく内輪で行われた怪談会(「怪談精霊祭」)
・大正八年に向島百花園で開催された百数十人規模の怪談会(「向島の怪談会」)
・大正十二年に井の頭でやはりかなりの規模で行われた怪談会(「怪談聞書」)
・大正十三年に名だたる文豪たちが集まった怪談会(「怪談会」)
・昭和三年に行われたやはり文豪・文化人による怪談会(「幽霊と怪談の座談会」)

 ごらんの通り、本書は大正から昭和初期にかけて開催された怪談会に関連するドキュメント・小説等を収録したものであり、明治の怪談会を題材とした「百物語怪談会」にまさに次ぐものと言えるでしょう。

 個人的にまず嬉しかったのは、これらの会で語られる怪談の質が、総じて高めであることであります。
 「百物語怪談会」の感想に書きましたが――もちろんこれは甚だしく野暮な感想ですが――あちらの怪談会では類話が多く、内容という点ではそれほど楽しめるものではなかった一方で、本書に収録された怪談は、現代の怪談ファンにとっても珍しいもの、初見のものも多く、ストレートに怪談集として楽しむことができました。
(ちなみに、偶然か意図してのものか、同じ内容の怪談が、別の怪談会で、別の人間が語ったものとして取り上げられているのが、実話怪談ファンとしてはなかなか興味深く感じた次第です)

 と、頭の悪い感想だけでは何なのでもう少し気取ったことを書けば、何よりも興味深いのは、実話怪談から怪異小説へ、物語が昇華されていく様が、本書に収録されていることです。
 「怪談精霊祭」、そしてそれとは別の場で行われた恋愛座談会(?)の「恋物語」にて語られた物語――同じ内容が、片や怪談(奇談)、片や恋愛懺悔として語られるのもユニークですが、そのエピソードが、鏡花の手により「浮舟」という小説に結実していくというのが、怪談を超えて物語全般の伝播・誕生過程として実に興味深いとともに、鏡花の創作の何たるかにも触れることができた思いであります。
 これはまさに、編集の妙というべきでありましょう。
(ちなみに鏡花の小説としては、他に「露萩」を収録。こちらは井の頭の怪談会をモデルとした作品ですが、全編にそこはかとない艶めかしさと忌まわしさが流れているのが面白い)


 それにしても――「百物語怪談会」の際にも感じましたが、同好の士の集まりとはいえ、怪談会がこれだけのメンバー、これだけの人数で開催されるというのは、怪談というものが当時の社会で一定の地位を持っていたということであり、まことにうらやましい限り。
 現代と当時とで何が異なるのか…怪談を楽しみつつ、古き良き時代に想いを馳せるのも一興かと思います。


 ちなみに…本書で一番驚かされたのは、芥川龍之介がドッペルゲンガー奇譚にコメントしている箇所であります。事実は小説より奇なりと言うべきか――

「鏡花百物語集 文豪怪談傑作選特別編」(東雅夫 編 ちくま文庫) Amazon
鏡花百物語集 (ちくま文庫 ふ 36-11 文豪怪談傑作選 特別篇)


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