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2009.09.24

「風狂活法杖」 虚無の向こうの風狂

 若き日の悲劇から刀を捨て、今は俳諧師として気儘に暮らす風来老人。弁天詣で大奥女中の行列が何者かに襲撃される場に行き合い、風狂の血を騒がせてこれを救った老人は、日本に阿片を持ち込もうとする陰謀に巻き込まれる。襲い来る強敵たちに、風来老人の無明一眼杖が唸る!

 佐江衆一先生と言えば、純文学でスタートしつつも、近年は時代小説の分野でも活躍している方ですが、その最初期の作品が本作であります。

 重い過去を背負いつつも今は俳諧師として風狂に生きる老人が、最強の無明一眼杖で、阿片党の陰謀に立ち向かう連作スタイルの本作。
 春の江ノ島から始まり、水戸や潮来、江戸の裏長屋、さらには江戸城大奥まで舞台を広げ、登場人物も清の拳法家に英国の怪軍人、風魔忍者に幻術師、千葉周作や水野忠邦までと、実に賑やかな時代エンターテイメントであります。

 正直なところ、舞台や題材、キャラクター配置的には、柴田錬三郎の影響を強く感じますし、その点では新鮮味に欠けるかもしれませんが、しかし、決定的に異なるのは、主人公のキャラクター像でしょう。

 風来老人は、元々は寺社奉行の家臣の家に生まれた武士。
 延命院事件(延命院の寺僧が大奥女中等と密通したという史実上の事件)摘発のために大奥に送り込まれた姉を、口封じのため父の命で斬らされ、直後切腹した父の介錯を務めたという凄惨な過去を背負い、紆余曲折を経て、今は裏長屋の気楽な暮らしにたどり着いたという人物であります。

 柴錬作品の主人公が重い過去や宿業を背負い、虚無の中にあって刀を振るう一方で、風来老人は同じく重い過去を、そしておそらくは虚無を経験しつつも、作中で見せるのは、風狂に遊び、活人の技として杖を操る姿のみ――

 それが年の功…というものかもしれませんが、しかし、虚無を乗り越えた先の境地として作者が風狂を想定しているのであれば、それは何とも興味深いことであります。


 エンターテイメント性が強すぎて――それはそれで私にとっては大いに歓迎すべき点ですが――深みという点では…という本作ですが、風狂という概念で柴錬的ニヒリズムの相克を描いてみせた(と感じられる)点は、注目すべきことではないかと感じます。

「風狂活法杖」(佐江衆一 徳間文庫) Amazon

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