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2009.09.19

「豪談 荒木又右衛門」 隠れた剣豪ものの佳品

 約十年ほど前に、単行本書き下ろしで連続刊行された「豪談」シリーズの一冊であります。
 この豪談シリーズ、講談名作を永井豪とダイナミックプロが自由な発想で漫画化(だから「豪談」)というコンセプトで、自由過ぎて大変な内容になっている作品も多いのですが、この「荒木又右衛門」は、その中でもかなり原典に忠実な内容となっています。

 荒木又右衛門の鍵屋の辻の仇討ちは、講談のみならず歌舞伎や文楽、また様々な小説やドラマの題材となっているのでご存じな方は多いと思います。
 備前岡山藩主池田忠雄の寵童・渡辺源太夫に横恋慕した河合又五郎が、思いあまってこれを殺害し逃亡、これに激怒した池田公が、源太夫の兄・数馬に上意討ちを命じ、数馬の義兄であり柳生新陰流の達人・又右衛門がその助太刀をすることになる…というのが、おおまかなあらすじ。

 最初に述べたとおり、本作も大筋はほとんどこれに沿った流れになっており、せいぜい又五郎側の助っ人として拳銃や鎖鎌で武装した「旗本十鬼衆」なる連中が登場するくらいで、魔界も忍法も登場しない(偏見…と言えないのがこのシリーズ)のですが、しかしそれでも…いやそれだからこそ、本作は剣豪もの・仇討ちものとして大いに楽しめるのです。

 まず注目すべきは、ドラマ面で、又右衛門と並ぶもう一人の主人公として、又五郎側の助太刀となった河合甚左衛門の存在をクローズアップしている点でしょう。
 実は又右衛門と甚左衛門は剣士として互いを認め合う仲であり、莫逆の友。それが、又右衛門が数馬の義兄であり、甚左衛門が又五郎の叔父であったことから、不倶戴天の敵として殺し合わねばならないという悲劇が本作では描かれることになります。

 仇持ちとして、いつ見つかり、襲われるやもしれぬ恐怖感を抱いたまま、旅を続けねばならぬ身――それも、又五郎の側に明らかに非のあるにもかかわらず、「武士道」という金科玉条のため彼を守らなくてはならない。
 しかし生き延びるためには、その武士道から外れた十鬼衆のような者の手まで借りなくてはならない矛盾…(おお、彼らの存在にそんな意味があったとは!) そんな甚左衛門の悲しみが溢れ出すクライマックスの決闘は、胸に迫るものがあります。

 もっとも、甚左衛門側に注目したドラマというのは、本作のみの専売特許ではありません。そこで本作のみ、と言い切れるのは…石川賢先生による、まさにダイナミックなアクション描写の数々であります。

 実は本作、クレジットは「永井豪とダイナミックプロ」となっていますが、巻末のスタッフを見ると、「構成・演出」「下描き」を、永井豪先生と担当しているのが石川賢先生。この辺りはうかつなことが言えませんが、少なくとも、絵的には、荒木又右衛門回り以外はほとんどを石川先生が担当しているのではないかと思います。

 それが最もよく窺われるのは、本作に何度か登場する、又右衛門が群れなす敵の中に飛び込んで、死闘を繰り広げるシーン。あの、颶風と表すべきか、水車と表すべきか…唸りをあげるように凄まじい勢いで描き込まれた剣の軌跡は、まさしく石川賢印の剣戟ならではのもの。
 石川賢先生先生描く剣豪アクションが――伝奇的・SF的要素がほとんど全く含まれないだけに――純粋に、思う存分楽しめるという点は、これは決して見逃してはならない点であります。


 何度か述べたように、いかにもダイナミックプロらしい、石川賢らしい(一般的なイメージとしてね)要素を削ぎ落としている故に、豪談シリーズの中では地味な印象はあるのですが、しかしそれで見逃すのはあまりに惜しい剣豪ものの佳品であります。


 あと、こういうネタ的なことはあまり書きたくないのですが、長時間の格闘の末にヨレヨレになりながらも又五郎を追い詰めた数馬が「源太夫~の仇……!! ヒイイ…」と言いつつそして又五郎の口の中に刃を押し込んじゃう辺りはやっぱり賢先生。

「豪談 荒木又右衛門」(永井豪とダイナミックプロ 中央公論新社ほか) Amazon
豪談荒木又右衛門 (永井豪のサムライワールド (6))

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