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2009.09.22

「天変斯止嵐后晴」 あらし、室町に吹く

 激しい嵐によって難破した筑紫大領秋実の船は、とある孤島に流れ着く。その島こそは、かつて大領とその腹心の刑部景隆に国を奪われ娘と共に追放された、阿蘇左衛門藤則の島だった。習い修めた方術で嵐を起こし、大領らを島に呼び寄せた阿蘇左衛門の復讐とは…

 国立劇場小劇場で上演された文楽「天変斯止嵐后晴」(てんぺすとあらしのちはれ)を見てきました。
 題名に表れているように、シェークスピアの「テンペスト」(あらし)を原作にした、ユニークな作品であります。

 原作は、魔法修行者にして前ミラノ大公プロスペローが、空気の精霊エリアルを使役して魔法の嵐を起こし、自分の地位を追った弟とナポリ王に復讐せんとする様を描いた物語。
 本作は、その原作の物語と人物配置をほとんど残しつつも、舞台を室町時代の九州に移し替え、一種の室町伝奇として翻案しています。

 原作ならではの要素である魔法や妖精エリアルも、方術や妖精英理彦(えりひこ)として翻案され、らしく扱われているのが楽しいところ(「妖精」は、何か別の語に置き換えられなかったのかとは思いますが…)。
 英理彦の姿そのものも、天部とも童子神ともつかぬ姿でデザイン、人形ならではの身軽さで宙を舞うのは、ユニークな来歴ならではの規格外の存在感です。

 また冒頭の嵐の場面などでは、珍しい十七弦の琴を用いるなど、題材が題材だけに、思い切った演出が随所に見られ賑やかで楽しい舞台でありました。


 さて、本作で特に印象に残ったのは、復讐の鬼とも全能の支配者とも機械仕掛けの神とも見えながらも、過去の怨讐を乗り越え、未来を祝福する立場となっていた阿蘇左衛門の存在。

 それまでに見せた復讐の修法に燃える姿の凄まじさからすれば、一見ずいぶんとあっさりと気持ちを入れ替えたやに見えもしますが、
「目前に在りと思う物も、例えば砂上の高楼にて、一切空と悟るべし。人間本来無一物、眠りに始まり眠りに終わる」
という台詞を見るに、彼は一種仏教的な無常感の境地に達していたと考えるべきであって、そこはむしろ翻案で生じた面白さと感じます。


 シェークスピアということを意識しすぎて、それがこちらの期待する文楽らしさを損ねている部分も、正直なところあった舞台ですが、しかし、翻案としての、翻案ならではの味わいもあり――何よりも、あのテンペストを室町の日本に移し換えてみせたというのが嬉しく、私は私なりに楽しむことができました。

 室町シェークスピア、難しいものではあると思いますが、この一作のみで終わるのは惜しいと感じた次第です。

 しかしあのラストは、やはり生身の人間が演じてこそ意味のある演出だとは感じますが…

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