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2009.09.09

「蛇衆」 一気呵成の戦国アクション、だけれども…

 金で雇われればどこの家にも付き、戦場で鬼神の如き活躍を見せる六人の男女「蛇衆」。宿敵・我妻家との決戦に備える鷲尾家に雇われた蛇衆だが、そのリーダー・朽縄が、鷲尾家当主・嶬嶄の嫡子であるという噂が流れる。噂に翻弄される蛇衆たちは、鷲尾家の内紛に巻き込まれるが…

 小説すばる新人賞というと、なかなかイキのいいエンターテイメント小説を送り出している印象がありますが、本作はその受賞作。
 戦国時代の九州を舞台に、己の腕に命を賭ける荒喰(傭兵)集団の死闘を描くアクション時代小説であります。

 本作のタイトルとして冠され、そして物語の主人公である蛇衆は、どの家にも属さず、戦場での働きを稼業とする荒喰。
 無手の格闘術の達人・朽縄、全身に仕込んだ無数の刃を飛ばす抜忍・無明次、巨大な六角金棒を獲物とする巨漢の鬼戒坊、人の背丈ほどの長大な太刀を操る紅一点・夕鈴、短弓での遠距離狙撃を得意とする孫兵衛、そして両端に刃を持つ槍を旋風の振り回す十郎太…
 全員がワンマンアーミーとも言うべき戦闘力の持ち主でありながらも、それぞれに過去を背負い、戦う他に生きる術が、行くべき場所がない男女の集まり、それが蛇衆であります。

 が、その一騎当千の蛇衆のリーダー格である朽縄が、戦国大名・鷲尾家の嫡子であるという噂が流れ、その噂を裏付けるように朽縄は蛇衆を抜け、侍として鷲尾家に仕官したことから、彼らの運命は、物語は、大きく動き始めることになります。
 そして鷲尾家の後継争いに巻き込まれた朽縄は、最も信頼できる手勢として、蛇衆を雇うのですが…

 ここからの展開は、まさに一気呵成、の一言。こちらの予想を一気にひっくり返すような後半の衝撃から、ラストに至るまでの死闘に次ぐ死闘の連続は、一読巻を置く能わず、の語がまさにぴったりとくる内容で、大いに楽しませていただきました。


 ――が、ストーリー面では、意外などんでん返しもあり、確かに楽しめたのですが、キャラクター面ではまだまだ…という感があります。
 あえて厳しい言い方をさせていただければ、キャラクターが、個性的でいるようでいて類型的と言いましょうか…記号としてはしっかりと描かれているのですが、一人の人間としては薄い、という印象が強い。

 終盤の蛇衆の死闘も、このキャラクターであればこう動くだろう、こう死ぬだろうというのがほとんど容易に予想できる(朽縄はちょっと予想できませんでしたが…)という、ある意味予定調和的部分が強く感じられるため、彼らの壮烈な暴れぶりに心動かされつつも、どこか冷めた目で見てしまったことは否めません。
 せめて、蛇衆の面々の、朽縄に寄せる想いがもう少し濃く描かれていれば…とは思うのですが、これはプロットの関係で難しいのかな。

 また、プロとしてのドライさが――プロとしての仲間意識の在り方が――もっと描き込まれていれば、終盤の死地に向かう際の悲壮感、男泣き度も上がったと思うのですが…と、このくらいにしておきましょう。
 日頃、あまりマイナス面は見ない私も気になるくらいですから、本作に対する賛否がかなり分かれているのも、確かに納得がいきます。


 しかし――物語展開の面白さと、そして新人とは到底思えないほどしっかりしたアクション描写は、確かに作者の優れた実力の表れと、これははっきりと言うことができます。
(尤も、アクションシーンのモチーフが元ネタ知っている人間には一目瞭然なのは、これはいかがなものかと思いますが…)

 珍しく厳しい感想も書きましたが、これは本作に優れた面も多かったゆえのこと。次回作でどれだけ成長した姿を見せてくれるか…作者の今後を楽しみにします。

「蛇衆」(矢野隆 集英社) Amazon
蛇衆

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