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2009.10.29

「たつまき街道」 高木時代伝奇小説最長の快作

 幕末のある夜、天下一夢想剣流の美剣士・扇千代之助は、瀕死の男から勤王方の密書を託される。さらに元許嫁の父が何者に斬られ、幕府の死命を決する火薬座絵図が奪われた犯人として疑われた千代之助は、勤王・佐幕双方から狙われる身となる。剣の師の見舞いのため、東海道を旅立った千代之助を、善魔入り乱れた人々が追う。

 薄手の文庫本全四巻と、高木彬光先生の長編時代伝奇小説中でもおそらく最長を誇るのが、この「たつまき街道」です。
 勤王浪士と幕府の役人双方を、いや凶賊ややくざたちをも敵に回した主人公・千代之助が、江戸に始まり、箱根を越え、東海道を西へ西へ…のロードノベルであります。

 とかくこのタイプの作品の主人公は、善意と信念でありながらも、いやそれだからこそ、悪意と誤解に翻弄されて幾多の艱難辛苦を味わう羽目になるのですが、千代之助の場合も、その例に漏れない…というより、よかれとして思ったことの九分九厘が裏目に出るという受難ぶり。
 瀕死の男から託された密書を守ろうとして勤王・佐幕双方から誤解を受け、身に覚えのない殺人強盗の責めを受け…旅を続けるうちに、彼を狙う者、敵対する者が膨れあがっていく様は、一種壮観ですらあります。

 しかし、それでも世間には一厘の善意もある。そんな窮地に陥る彼を救う者ももちろんいるわけで、それが快男児・清水次郎長と森の石松ら次郎長一家の面々。
 武士である浪士や役人たちが物の道理をわきまえず、千代之助を苦しめる一方で、アウトローである彼らが義理と人情から千代之助を救うというのは、一種皮肉でありますが、それもまた、幕末の混乱というべきでしょうか(ちなみにアウトロー=善ではもちろんなく、黒駒の勝蔵はしっかり悪役で登場)


 さて、高木先生の時代伝奇小説は、実はかなり類型的な作品が大半で、口幅ったいようですが日本では五本の指に入るであろう(というか全部で三人くらいじゃなかろうか)高木時代伝奇小説ファンの私が見ても苦しいことが多いのが事実。
 本作も人物配置や物語展開等、時代伝奇小説のテンプレに実に忠実な内容で、その意味ではまさに類型的ではあるのですが、しかし、それにもかかわらず、かなり面白い部類に入ると断言できます。

 それは、物語自体のボリュームが、起伏に富んだ物語展開と複雑に入り組んだ人物関係を描き出すことを可能にしているからではないかと感じます。

 例えば、千代之助を一連の事件の犯人と疑って江戸から追い続ける与力のキャラクターなど、彼の無実を信じて道理に従おうとしつつも、組織の壁にぶつかって苦しんだり、千代之助をあの手この手で狙ううちに、やがて真剣に彼に恨みと屈辱感を抱くようになって…と、実に人間くさくてよろしいのですが、主要登場人物だけで十数名の本作で、こういうキャラを描けるのは、一つには分量による面が大きいと思えるのです。


 もちろん、あくまでも高木時代伝奇小説の中で、という前提が付く作品であって、やっぱり残念な部分はあり(例えば物語のキーアイテムであるはずの火薬座絵図が、本当に争奪戦の的以上の何ものでもない扱いだったり)、古本を探して読んで! とまでは私は言いませんが、しかし、ファンとしては十分お宝作品なのであります。

 主人公の流派が「怪傑修羅王」と一緒だったり、「御用盗変化」の花和尚の吉三が登場したり、微妙に他の作品とリンクしているのがたまらんのです。

「たつまき街道」(高木彬光 春陽文庫全2巻)
「続たつまき街道」(高木彬光 春陽文庫全2巻)

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