「妖棋死人帳」 恐怖の鍵、楽園の扉
「火星年代記」「鈴の音」と続いてきた水木しげるの貸本漫画時代の長編怪奇時代漫画の再刊ですが、ついに「妖棋死人帳」が刊行されました。
後にリライトされた「怪奇死人帳」の方は、これまでも比較的簡単に読むことができましたが、そのオリジナルたる本作も、こうして読めるようになったというわけです。
私もこれまで「怪奇」の方は読んだことがありましたが、「妖棋」の方は初めて。全くもってありがたいことです。
さて、本作の登場人物、設定、展開自体は、ほとんどまったく「怪奇」と同じ(こちらがオリジナルなのですから当たり前ですが…)。
そのためもあって、本作に対する私の印象は最初は「怪奇」とさして変わらなかったのですが、しかし、じっくり読み返してみれば、死人帳の存在の大きさというものに、今更ながらに気づかされます。
本作の終盤に於いて、主人公は大きな価値観の転換を経験することになります。
それは、主人公にとって恐怖の対象であり、それを避けるために戦う(と言っても将棋ですが)ことになる死の世界の存在に関する一大どんでん返しに起因するもの。
この、冷たく暗く思われた死の世界こそが、実は――という皮肉な大転換こそが、本作のキモであり、そしてその点に、水木先生ならではの、異界への複雑な想いを感じ取ることができるのです。
苦しみに満ちた現世を離れた異界の存在を認識しながらも、同時に、それが(少なくとも今は)手の届かないものであることを知り、現実の中で生きていく…水木作品にはしばしば登場するシチュエーションですが、本作においても、その希望と諦念の入り交じった想いは、はっきりと描かれています。
恐怖の鍵であり、同時に楽園の扉である死人帳。その相反する性格は、この独特の異界への想いに由来するものだと、今更ながらに気づいた次第です。
「妖棋死人帳」(水木しげる 小学館クリエイティブ) Amazon

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