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2009.10.07

「斬馬衆お止め記 御盾」 抜かれた伝家の宝刀

 関ヶ原の怨敵の血を引く信州真田家を取り潰さんとする大老・土井利勝。初代藩主・真田信之から藩政を託された信政は、これに抗するため、戦場で本陣を守ってきた斬馬衆の末裔・仁旗伊織に、公儀隠密の撃退を命じる。伊織は戸惑いながらも、真田の忍び・神祗衆と共に暗闘に身を投じる。

 「勘定吟味役異聞」「織江緋之介見参」と、今年に入ってから長篇シリーズを相次いで完結させた上田秀人先生ですが、早くも次のシリーズが始まりました。光文社文庫で一足早く始まった「目付鷹垣隼人正裏録」に続き、徳間文庫では「斬馬衆お止め記」がスタート。その第一弾が本作「御盾」です。

 シリーズタイトルとなっている「斬馬衆」とは、かの名将・真田昌幸が創設したという一種の特殊兵。刃渡りだけで七尺を越える大太刀を武器に、戦場で敵の騎馬武者から本陣を守る役目を担った者たちのことであります。
 突撃してくる騎馬武者の、その馬の脚を大太刀の一閃で斬り払うという恐るべき技を持った一団ながら、しかし、戦の無くなった世ではまさに無用の長物となってしまった斬馬衆の家を継ぐ主人公・伊織に、真田信政から真田家の落ち度を探すために送り込まれた公儀隠密から藩を守れ、という密命が下されるところから、この物語は幕を上げます。

 しかし実戦経験のない伊織、しかも本来であれば対騎馬武者の兵に忍びの相手をさせようというのですからこれは無茶な話。それでも主命には逆らえないのが宮仕えの辛いところ…というわけで、サポート兼お目付役の神祗衆(関ヶ原の合戦以来真田家に庇護されてきた戸隠神社の歩き巫女の後裔という設定が面白い)の女忍・霞とともにいつ終わるともしれぬ対忍びとの戦いが始まる…というのが本作の基本設定であります。

 しかし、斬馬衆と公儀隠密の戦いで終わらないのが上田作品の恐ろしいところ。
 真田家に深い恨みを持つ土井利勝に加え、次代の権力者たる松平信綱も真田家を狙うという、上田作品お馴染みの全方位敵対関係は早くも本作からスタートしているのに加え、真田家の中でも、まだまだ信政には全てを任せ切れぬ…と信之が更なる裏の動きを見せ――そんな権力者の動きに、伊織は早くも翻弄されることになります。
 更にそこに、これまで真田家で厳重に守られてきた徳川家康との密約――関ヶ原の戦の真実!――が明かされ、さらにもう一段奥に秘密が…というのですから、伝奇ファン的にもたまらない作品であります。


 このように挙げていくと、これまでの上田作品のパターン通りの作品のようにも思えますが、しかしパターンの良い部分を継承しつつも、新たなる要素を本作は取り入れています。
 その一つが、伊織の大太刀のアクション。刃渡りで七尺、全長で一丈という、文字通り桁外れのサイズと、そこから導き出される破壊力を備えた大太刀ではありますが、しかし敏捷性を旨とする忍びの相手との相性は最悪――と思わせておいて、これが対忍びの最終兵器的な扱いで大暴れしてくれるのは、痛快の一言(その理由がまた、斬馬衆と大太刀が戦国の遺物であるのを逆手に取った説得力十分のもので良いのです)。
 上田作品に限らず、これまで無数の時代小説で主人公の剣術が描かれてきましたが、大太刀術はかなり珍しいはず。これだけでも大きなアドバンテージです。

 そしてもう一つは、主人公の立ち位置であります。
 これまで上田作品の主人公は、ほとんど全て幕府側、もしくはそれに近い位置の人間でした。それに対して、本作の主人公は大名の家臣という立場。これまでの主人公は幕府内部の権力闘争に巻き込まれていましたが、伊織の戦いの舞台は幕府と主家の間の暗闘ということになります。
 いや、幕府内部でも水面下で権力者同士が睨み合い、さらに真田家も一枚岩ではないことを考えれば、伊織が巻き込まれた暗闘の渦は二重、三重のもの。これまで以上に複雑で、エキサイティングなストーリー展開が期待できそうではありませんか。


 さて、第一弾からテンションの高い本作ですが、戦いは始まったばかり。真田家と幕府に秘められた謎の行方も、そして伊織の成長の行方も、まだまだこれからです。
 ついに抜かれた伝家の宝刀がどこに収まるのか――期待せずにはいられません。


 …これでシリーズじゃなかったらどうしようかしら。

「斬馬衆お止め記 御盾」(上田秀人 徳間文庫) Amazon
御盾―斬馬衆お止め記 (徳間文庫 う 9-16)

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