「京乱噂鉤爪 人間豹の最期」 人間豹の行き着くところ
江戸を騒がせた末に姿を消した人間豹・恩田乱学が京に現れた。幕府と薩長の争いが激化する中で暗躍する陰陽師・鏑木幻斎は、恩田を操ってさらに京を混乱させていく。恩田との決着のために京に赴いた明智小五郎は、鏑木の陰謀を知る。恩田の中の人間性を信じ、鏑木と対決する小五郎だが。
松本幸四郎・市川染五郎父子による乱歩歌舞伎の第一弾「江戸宵闇妖鉤爪」から早いもので約一年。その続編「京乱噂鉤爪」を観劇して参りました。
外題に明らかなように、今度の舞台は京。時代設定を幕末に置くこのシリーズですが、日本の夜明け前の混沌の世界に、明智小五郎と人間豹、そして邪悪の陰陽師が三つ巴の争いを繰り広げます。
「人間豹」の続編と言いつつ、原作は全て前作で消化してしまったため、本作はキャラクターのみを借りたほぼオリジナル。
その意味では、はたして乱歩歌舞伎と言えるかは疑問ですが、しかし縛りがなくなったため、より自由な演出や展開が可能となっているのは事実です。
本作では、明智・恩田・鏑木の三人を中心にしつつも、理想に燃える青年公家、明智の恩師の娘とその兄一家、鏑木配下の女隠密、さらには明智の恩師が作り、鏑木が執着する少女人形と、様々なキャラクターが登場。
コミカルな町家のシーンあり、人形振の妖しげな舞いあり、演出も豊富で、より歌舞伎らしくなった…という印象もあります。
特に素晴らしかったのは第一幕の終盤――
ついに明智と恩田が再見したその時、鴨川が大嵐で決壊して舞台上の全てを押し流し、そこから鏑木の妖術により幻の羅城門がせり上がりで出現! 明智・恩田・鏑木の掛け合いの末に、人間豹の宙乗り…というか宙返りが大盤振る舞いされるくだりは、まさに外連味の固まりで、大いに堪能させていただきました。
このように伝奇色濃厚な歌舞伎として実に楽しい作品であったのですが、しかし、人間豹の行き着くところを描いた続編・完結編として見た場合には、疑問符がつきます。
それはひとえに、人間豹・恩田の存在感が薄かった、ということにつきます。
本作の悪役・鏑木が、陰陽頭にして実は天下を狙う大伴黒主、しかも人形フェチという実に濃い人物造形だったこともありますが、その陰に人間豹が隠れてしまっては元も子もない。
作中では、恩田は京の人々から恐怖と同時に、既成概念の破壊者として崇敬されているように受け取れるのですが、それが直接的に描かれることがなかったのが、何とも残念なのです。
その点がもっとしっかりと描かれていれば、徐々に内面を変えつつも、結局は人々に石持て追われた人間豹の絶望と、それが逆に人々に救いをもたらすという皮肉(そしてそれに対する明智の悲嘆)が生きたのでは…と感じてしまった次第です。
と、残念な部分もありましたが、しかし上で述べたとおり、伝奇エンターテイメントとしては大いに楽しめた本作。
乱歩世界にはまだまだ怪人妖人が犇めいておりますし、第三、第四の乱歩歌舞伎が観たい、と強く感じるのも、また正直な気持ちであります。
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