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2009.10.24

「帰り舟 深川川獺界隈」 悪人とダメ人間だらけの痛快作

 父親と不仲になり家を飛び出した伊佐次が、放浪の末に深川に帰ってきた。その直前、急死を遂げたという父親の死に様に、伊佐次は周囲の態度から不審を抱く。深川を巡り、様々な勢力の思惑が渦巻く中に、父も巻き込まれたらしい。「どんどんの伊佐次」は、したたかに闇の中を駆ける。

 山田正紀先生が、「普通の」時代小説を書く、と知った時は、正直なところ「山田正紀もか…」という気持ちになったものです。
 しかもタイトルは「帰り舟 深川川獺界隈」と、どう見てもいわゆる文庫書き下ろし時代小説。時代小説界では「人情」の代名詞とも言える(?)「深川」を冠しているとくれば、私のようなひねくれまくったファン的には、どうにも意気上がらない作品に思われたのですが…

 本当に申し訳ありません。私の目がいかに節穴であったことか、これ以上ないというほど、思い知らされました。
 さすがに山田正紀、一見、文庫書き下ろし時代小説のフォーマットに則りながらも、登場人物、設定、展開と、いずれも独自性に満ちた、人を食ったものばかり。よそではまずお目にかかれない痛快な作品でありました。

 何しろ、登場人物の九分九厘が、悪党かダメ人間という凄まじさ。やくざ、博打打ち、殺し屋という裏街道の住人たちだけでなく、一応堅気の職業の面々も、皆どこか社会不適合者予備軍というかそのものというか――人情はどこへ行った、と言いたくなるような連中ばかりであります。
 主人公・どんどんの伊佐次の弟分であり、本作のキーパーソンである「孝行息子」源助も、そのダメな奴の典型。一応家業を持ちながら博打にドはまり、大負けに負けて、家財はおろかついには自分の母親(この母親がまたとんだ莫連)までを抵当に入れての大勝負に打って出るという、ギャンブル漫画のダメ人間のようなダメっぷりであります。
(そんなダメ人間が、そもそも孝行息子というのもおかしな話ですが、そこにはもちろん裏があって…と、そこに主人公ながら謎の男である伊佐次が暗躍、劣勢に陥った源助を思わぬやり方でフォローするくだりの痛快さたるや…! それがまた彼の奥の手と渾名の由来の説明になっているのが心憎い)

 と、ダメダメ連発しましたが、しかしそんな人間ばかりの物語でも、陰惨さや不快感はなく、むしろ痛快なピカレスク・ロマンとして成立しているのは、一つは山田先生の良くも悪くも落ち着いた文体によるかと思いますが、それ以上に、登場人物の大半が、一種の歪みないバイタリティに満ちた存在として描かれているのが大きいのだと思います。
 悪党でもダメ人間でも、自分の生を必死に生きていく…かつての山田作品には、どこか狂熱的なエネルギーを内に秘めたキャラクターがしばしば登場していた印象がありますが、本作はそうしたエネルギーが、表に向かって迸っているように感じられるのです。

 あとがきによれば、本シリーズは「マカロニ・ウェスタン」を強く意識しているとのこと。なるほど、マカロニ・ウェスタンの記号的部分はまだ断片的ですが、物語とキャラクターの持つ臭いは、確かにそれらしい…というのはちょっと調子の良すぎる感想でしょうか。


 いずれにせよ、実に剣呑で魅力的なこの物語はまだ始まったばかり。
 本書の最後のエピソードに登場した副主人公格の浪人・堀江要もまた、得体の知れない怪人物で、さて、この先物語がどのように転がっていくのか…これは見逃せませんよ。

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帰り舟 深川川獺界隈 (朝日文庫)

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