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2009.10.08

「多聞寺討伐」(その一) 光瀬時代SFのスタイル

 扶桑社文庫というと海外ミステリ中心の一方で、マニア好みのチョイスな国内の名作を刊行してくれる場でもあります。最近はその中でも日本SFを重点的にリリースしているようですが、その一つが光瀬龍先生の短編時代SFを集めた本書「多聞寺討伐」です。

 「多聞寺討伐」というタイトルの短編集は、かつてハヤカワ文庫から刊行されており、今回はその単なる復刊かと思いきや、「多聞寺討伐」に加え、同じく時代SF短編集の「歌麿さま参る」収録作品+αという、ファンにとっては非常にありがたい内容。
 収録作十一篇のうち、特に印象に残る作品を、三回に分けて取り上げましょう。


「追う 徳二郎捕物控」

 京で消えて浅草に降ってきたという男を調べることとなった目明かしの徳二郎。それと並行して、奇怪な死を遂げた同業者の謎を追う徳二郎だが、二つの事件は意外な繋がりを見せる。

 本書の収録作品では執筆時期が二番目に古い(江戸時代を舞台としたものでは一番古い)本作は、ある意味光瀬(短編)時代SFの典型とも言うべき作品。

 副題にあるとおり、一種の捕物帖として描かれた本作。主人公は頭の怪我が元でちょっとした超能力をもってこそいるものの、物語のスタイル自体は純粋な時代ものとしても全く遜色ない内容・描写で展開しておいて、徐々にその枠組みを歪め、崩してゆき、終盤にその世界観を一撃で崩壊させてみせる――本書に収録された他の作品にも共通するスタイルが、本作の時点で既に完成していることに、感心させられます。

 そして単に意外な取り合わせで驚かせるのみならず、文字通り異次元の戦いを垣間見てしまった男の抱く何ともいえぬ索漠たる心情描写からは、光瀬作品らしいスケールと無常感を感じ取ることができます。その意味でも、一つの典型と呼べる作品でしょう。


「弘安四年」

 蒙古軍の再来に備え、九州に出陣することとなった関東武士・北島勘解由左衛門。しかし彼の愛刀を巡り、幾度となく怪現象が起きる。果たして彼の太刀に秘められたものとは。

 本書に収録された中では最も古い時代を扱った作品であり、同時に執筆時期も一番古い作品。弘安とは言うまでもなく鎌倉時代の年号、あの元寇を題材とした作品です。
 本作で目を引くのは、文体が、軍記物語のそれを強く意識したものとなっていること。
 それはもちろん、時代SFであっても、いやそれだからこそ時代ものとしてのリアリティを備えさせようという――そしてもちろんそれは本書の他の作品にも通じるところですが――作者の意図によるものであるには言うまでもありません。

 しかしそれが同時に、終盤に鎌倉武士が垣間見た世界に強烈な超現実感を与え、二つの世界が交錯する時の衝撃を生み出していることには感心させられます。
 内容的には、SF小説には幾度か見られるものではありますが、それでもなお得難い味わいのある作品です。


 次回に続きます。

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