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2009.10.30

「義輝異聞 将軍の星」 誰よりも義輝を愛した者

 紹介する順番が前後してしまいましたが、宮本昌孝先生の名作「剣豪将軍義輝」とその続編「海王」を繋ぐ、義輝にまつわる物語――いわば外伝を収録する短編集です。
 収録されているのは、独立した短編「前髪公方」「妄執の人」「紅楓子の恋」の三篇と、「義輝異聞」と角書が付された短編「丹波の黒豆」「将軍の星」「遺恩」「三好検校」四篇。室町時代後期から戦国時代にかけてを舞台とした作品が集められています。

 さて、「義輝異聞」は、内容的にまた二つに分かれます。「丹波の黒豆」「将軍の星」は、本編に書かれざる事件を描いた外伝、と言える作品。対して「遺恩」「三好検校」は、義輝の死後、残された人々の姿を描いた後日譚となっています。

 「丹波の黒豆」は、義輝がまだ義藤と名乗っていた頃、三好と細川の合戦に巻き込まれて落人となった義藤が出会った事件を描いた一編。義輝には珍しく、ちょっと艶っぽいお話でもありますが、本作での出来事が実は後々大きな意味を持つという、「剣豪将軍義輝」と「海王」を繋ぐ物語でもあります。
 「将軍の星」は、義輝が霞新十郎と名乗って廻国修行を行っていた(それにしてもこの辺りの設定は宮本先生の豪腕ぶりに改めて惚れ惚れします)頃の挿話。古河公方と北条家の争いに巻き込まれた義輝主従が、快刀乱麻の大活躍、ラストには義輝のズルいくらい格好良い台詞も決まり、本書の表題作に相応しい痛快作、本編のボーナストラックとも言える作品であります。

 義輝のみならず、その頼もしい仲間たちにもう一度会えるというのは、ファンとしては大いに嬉しいことであると同時に、物語の結末を思えば、何とも言えぬ気持ちになるのですが、まさにその気持ちを映し出したような作品が、後日譚の「遺恩」です。
 義輝の弟・覚慶(後の義昭)を心ならずも支えることとなった明智十兵衛光秀と細川與一郎藤孝が、義輝が周囲の人間たちに与えた影響の大きさを改めて感じるという趣向の本作。そのラストで描かれる十兵衛の慨嘆は、まさにファンであれば等しく頷けるものではないでしょうか。
 そしてまた「海王」を読むとその嘆きは一層深まるのですが…

 そしてラストの「三好検校」は、また異なる角度から義輝の死を描いた作品。義輝の死の場に居合わせたために悪名を一身に背負い、金貸しとなった男を中心に、義輝という巨大な中心を失った時代の渦に翻弄される人々の姿が、残酷に描き出されます。
 本編では(そして外伝でも)太陽のような明るさを持って描かれる義輝ですが、しかしその光は、同時に陰も生み出す。英雄譚の前に忘れられがちな当たり前のことをすくい上げた、異色ながら印象に残る作品です。

 さてこの四篇、特に「遺恩」から感じられるのは、義輝という人物の巨大さと同時に、作者が如何に義輝というキャラクターに愛着を持っていたか、ということであります(「遺恩」ラストの慨嘆は、そのまま作者の言葉と見て差し支えないでしょう)。
 以前私は「海王」を紹介した際に、神に残された者たちの物語と評しましたが、誰よりもその喪失感を抱いていたのは作者自身であり、そしてそれこそがこの「義輝異聞」、さらには「海王」を書かせる原動力となったのでは…と感じた次第です。


 なお、 独立短編の方は、それぞれ堀越公方政知の子・茶々丸、足利義材、山本勘助を主人公とした、宮本版歴史小説といった趣の作品。いずれも短編ながらそれなりに長いスパンを扱った作品であり、それゆえ事件の羅列になってしまう部分がなきにしもあらずですが、そんな中にも、主人公の生き様を規定する事件や象徴するアイテムを明確に設定し、それを中心に物語を展開することで、物語の発散を防いでいるのはさすがというべきでしょうか。
 義輝異聞以外の作品、と扱ってしまうには少々もったいない作品であります。

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将軍の星―義輝異聞 (徳間文庫)


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