「多聞寺討伐」(その二) 光瀬時代SFの代表作
前回の続き、扶桑社文庫版「多聞寺討伐」の収録作品紹介(その二)です。
「雑司ヶ谷めくらまし」
雑司ヶ谷の集落十八軒の住人が一夜にして皆殺しにされ、集落が灰燼と帰した。あたかも軍勢に襲われたかのような現場で、目明かしのふな次は半ば焼けた手紙を見つけるが…
本書も捕物帖スタイルの一編。「追う」で述べた典型に当てはまる作品ではありますが、しかし本作では「犯行」の内容・スケールとその手口、さらに意外な犯人の取り合わせという点で、大いに印象に残る作品です。
まさにSFならではの、SFでしか描けない世界を描く一方で、岡っ引きたちの現場検証シーンの描写など、時代小説としてのリアリティも決して忘れていないのが、また心憎いところです。
ちなみに本作、内容的にも犯人的にも、ほぼ同時期(本作がやや後)に執筆された「寛永無明剣」中のエピソードと重なるものがあるのですが…この辺りもちょっと興味深いところです。
「多聞寺討伐」
黒羽郷多聞寺周辺で続発する怪事件。首を失った死人が動き回り、多聞寺の荷に手を出した者が不可解な死を遂げる無法地帯と化した地に、代官所は討伐隊を送るが、敵の力は想像を絶するものだった。窮地に陥った彼らに助力を申し出たのは…
本書の表題作にして、光瀬時代SFの代表作の一つと言っても良いであろう名作。
映画「用心棒」のような荒廃した世界を舞台としつつも、そこを支配するのは、単なるやくざ者などではなく、奇怪な術を操る多聞寺衆。死者が生者の如く動き、生者が一瞬にして無惨な死者と化す世界を淡々と――手押し車のキイキイときしむ音を背景に――描く前半の迫力には、ただただ圧倒されます。
多聞寺討伐に臨むのが、二人組の乞食というのもまた意外性十分で、物語世界に、更なる(良い意味での)非現実感、異界感を与えているのも作者の巧みなところでしょう。
個人的には世界観が明かされた後の戦いの描写がちと長いようにも感じますが、しかしそれでも本作の魅力には、些かの瑕瑾もないのは言うまでもないところです。
「紺屋町御用聞異聞」
隠し売女の調べに当たった御用聞きの延次。実はタイム・パトロール分局員である彼は、事件の陰に潜む奇怪な存在が、時間密航者であると睨み、行動を開始するのだが。
これも定番の岡っ引きもの…と思わせておいて、終盤で思わぬ背負い投げを喰らわせてくるくせ者の一編。実は主人公が…という部分を冒頭から描いていることに、激しい違和感を抱いていたのですが、それがこのような形でオチるとは――
内容が内容だけに詳しくは書けませんが、本作は単独で読むよりも、本書のような作品集に収録された時に、その破壊力をより増して感じられます。
その三に続きます。
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