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2009.11.18

「月の蛇 水滸伝異聞」第1巻 挑む相手は百八の星

 梁山泊の豪傑たちを悪役としたことでファンを驚かせた異色の水滸伝「月の蛇」の単行本第一巻が発売されました。
 謎の黒い蛇矛を持つ男・趙飛虎が、百八人の豪傑に戦いを挑むアクション漫画であります。

 「水滸伝」が、時の権力に抗し、水のほとり梁山泊に立て籠もった百八人の豪傑の物語であることはよく知られていますが、彼らの大半は、元は山賊・やくざといったならずもの。
 果たしてそんな彼らに忠義大義を語ることができるのか…というのはこれは誰でも考えることではありますが、そこを真っ正面から取り上げ、彼らを強大な悪の集団として描いたのが本作であります。

 実は、すぐ上で述べたように梁山泊を悪役とする発想は非常に珍しいというわけではなく、本場中国では、反・水滸伝小説も色々とあるのですが、しかし日本で、しかも漫画でそれをやったのは、やはりコロンブスの卵的着眼点の良さと言うべきでしょう。

 さて、この第一巻で飛虎と対決するのは、周通と李忠、薛永に穆弘という面々。
 プロローグ的位置づけの第一話でいかにもな悪党ぶりを発揮して倒される周通と李忠、穆弘の露払い的に登場して地味に強かった薛永、本作最初の強敵として「遮る者無し」ぶりを見せつける穆弘(そして兄の陰に隠れて結局戦わない穆春)。
 …その出番を簡単に挙げればこんな感じですが、そのいずれも、ファンなら「ああ、なるほど!」と頷けるものばかりなのが何とも心憎いのです。

 水滸伝ファン的には、あの豪傑たちが悪役…というのは、さすがに複雑なものがあります。
 しかし、そのアレンジぶりが、原典の描写を作者なりに咀嚼した上で一歩踏み出して見せた、「わかっている」ものだけに、これはこれで…と、ちょっと、いやかなり楽しくなってしまったのは事実です。
(裏で糸を引いているらしい呉先生が腹黒なのは、ファン的にはむしろ常識なので意外性はないといえばないですが)

 特に、原典では大物のはずなのに今一つキャラクター的に恵まれていなかった穆弘をあそこまで格好良く描いてみせるとは、作者はかなりの水滸伝ファンなのでは、と感じた次第。


 さて、思わず敵方のことばかり書いてしまいましたが、これだけの相手を向こうに回すと、主人公たる飛虎は――実力ではなく魅力において――まだまだ分が悪い。
 果たして飛虎が彼らに負けない魅力的な豪傑となれるか…その意味でも、百八の星に挑む彼のこれからが楽しみです。

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