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2009.11.09

「三ツ目の夢二」第1巻 以前と以後、美と醜

 モデルでもあった恋人・彦乃の死から立ち直れず、絵を描けなくなった竹久夢二。心霊写真に没頭するようになった夢二は、浅草の写真館で魂を抜かれた少女と出会う。彼女に導かれた夢二は、夢とも現ともつかぬに彦乃と再会するが、彦乃の真の姿は…

 相変わらず精力的に作品を発表している大塚英志の最新作の題材は、大正ロマンの代表的存在である画家にして詩人、デザイナーの竹久夢二。
 大塚作品では、かつて「北神伝綺」に晩年の夢二が登場しましたが、本作で描かれる夢二は、それよりも十年ほど前の姿で登場します。

 常識人から半歩踏み出したような主人公が、奇怪な人物に誘われて現実と異界の狭間の事件に巻き込まれるというのは、大塚伝奇作品のパターン。
 本作もその範疇に含まれるのですが、主人公が主人公であるためか、その事件が女性にまつわるものというのが面白いところです。

 そしてその内容はと言えば、心霊写真と関東大震災と黄泉戸喫、エクトプラズムとメトロポリスと地底都市と、今回もかなり力業の三題噺。
 しかし、そこにどこかファンタジックで現実離れした味わいが漂うのは、夢二の浮き世離れしたキャラクターによるものと同時に、作画を担当するひらりん氏の絵柄によるところも大でしょう。
 氏の作品は「サイチョコ」しか読んだことはありませんでしたが、このような描き方もできるのか、と少々感心した次第。


 さて、序章とも言うべきこの第一巻の前半のエピソードで、夢二は、美しい外見に隠された醜いものを見る力を持つ第三の目を与えられます。
 大正ロマン華やかなりし時代の陰に隠された醜さ――それは、表の歴史からでは見えぬ、大正という時代の陰を描き出すのではないかと感じます。
 そしてそれは同時に、明治と昭和の間、日本の近代と現代の間にあった大正を通じて、現在の日本のルーツを浮かび上がらせることにもなるのでは…とも。

 関東大震災により、東京は「それ以前」と姿を著しく変えたのは言うまでもないお話ですが、そう考えると本作の物語が、まさにその大震災から始まる――そして作者の言によれば大震災が起きなかった世界を描く――というのは、実に象徴的です。

 以前と以後、美と醜。夢二に、第三の目は、何を見せるのか…さて。

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