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2009.11.13

「幻想綺帖」第2巻 最良の描き手による玉藻と藻

 烏帽子折りの少年・千代松の幼なじみ・藻は、ある晩を境に人が変わったようになり、玉藻の前の名で関白忠通に仕えるようになる。やがて彼女の周囲で起こる数々の怪事。陰陽博士・安倍泰親の弟子となり、千代太郎と名を変えた千代松は、彼女が白面金毛九尾の狐に魅入られたことを知るのだが…

 幻想小説・怪奇小説の名品を波津彬子先生が漫画化する「幻想綺帖」、第一巻は短編集でしたが、この第二巻は、岡本綺堂先生の名作「玉藻の前」の漫画化です。

 インド・中国の王朝を騒がせ、我が国でも玉藻の前の名で宮中に入り込んだ末に、安倍泰成と死闘を繰り広げた金毛九尾の狐の伝説を基に、独自の解釈による伝奇絵巻として再構築したのが、綺堂の「玉藻の前」。
 関白・藤原忠通と、その弟・頼長が争った保元の乱の前史的性格を持つ原作は、しかしそれ以上に、妖しくも哀しい恋愛物語として、強く印象に残ります。

 妖孤に魂を奪われ、玉藻の前となる少女・藻と、その幼なじみであり、後に安倍泰親の弟子・千代太郎となる千枝松…幼い恋心を通わせながらも、奇怪な運命に引き裂かれて敵味方と別れる二人を描くことにより、単なる妖怪譚に留まらぬ味わいを生み出した原作を――第一巻に収められた諸作がそうであったように――本来のイメージを全く違和感なくビジュアライズした上で、原作の模写に留まらず、波津作品の独自性をもって成立させているところに、本作の価値があります。

 その独自性を生み出しているのは、原作の悲恋ものとしての要素を、ほんのわずかながら、しかし実に効果的に強めて描き出している点によるのでしょう。
 数々の男を手玉に取り、さらに日の本の政まで狂わせようとした希代の妖女・玉藻の前。彼女が千代太郎の前で見せた顔は、はたして玉藻としてのそれであったか、藻としてのものだったか――玉藻の前の中で、藻の魂は失われてしまったのか、千代太郎への想いを抱いていたのは玉藻なのか藻なのか…

 この、妖女の持つ複雑なパーソナリティーについては原作ではさほど掘り下げられていなかった印象がありますが、本作の結末では、それに、原作の味わいを崩さぬほどさりげなく、しかしはっきりと答えを出していると感じるのです。
(原作がゴーティエの吸血鬼小説「クラリモンド」の影響を受けていることは有名ですが、その「クラリモンド」にない要素をクローズアップすることにより、この漫画版は「クラリモンド」の影を払拭したとすら感じるのです)


 波津作品では、これまでも幾度となく、喩えでなしに住む世界を異にする男女の姿が描かれてきました。
 決してあからさまでなく抑制の利いた筆で、しかしそれだからこそ情熱的な想いを感じさせる描写によるその男女の姿は、本作でもはっきりと見て取ることができます。

 「玉藻の前」は、ここに最良の描き手を得たと感じた次第です。

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