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2009.12.31

「宵闇迫れば 妻は、くノ一」 小さな希望の正体は

 壮絶な戦いの末、御庭番衆を壊滅状態に追い込み、母・雅江を失った織江は、明日の望みのない潜伏生活を送っていた。これに対し、御庭番頭領は織江への刺客として「夜に溶ける」と言われる伝説の忍びを送り込む。織江を守るため松浦静山が取った手段とは…

 と、あらすじに主人公の名前が出せませんでしたが、数奇な運命に引き裂かれた彦馬と織江のカップルの苦難の行方を描く「妻は、くノ一」の第六巻です。

 風野作品屈指の大殺陣が展開された第五巻を受けての本作で描かれるのは、御庭番衆からの新たなる刺客と織江との対決。
 前作で織江・雅江・静山に江戸の配下を壊滅させられ御庭番衆は、各地に潜入していた凄腕の忍びを呼び返すのですが、その第一号が「夜に溶ける」と評される怪忍者・宵闇順平であります。

 迫る宵闇の魔手に、織江が、静山がいかに対するか、というのを縦糸に、そして今日も江戸の怪事件・珍事件に挑む彦馬の姿を横糸に、物語は展開していきます。
 正直なところ、縦糸の緊迫感に比べると、横糸の印象がちょっと薄れる感もありますが、しかし、抜け忍であることに疲れ、酒に溺れていた織江を復活させるのが、彦馬写しの怪事件解決という趣向はうまいものだと思います。

 も一つ感心させられるのは、作中へのペーソスの織り込み方の巧みさでしょう。
 織江が酒に溺れる辺りの妙なリアリティは、決して単なる理想の女性ではない彼女の等身大の姿を浮かび上がらせてくれますし、その彼女の母を一方的に聖女視する鳥居耀蔵のダメ人間描写と対比できるのがまた面白いところ。

 そして何より、クライマックスの織江と宵闇順平の対決の中で、織江が反撃の糸口を掴む原因というのがまた…
 これだけペーソス溢れる理由で術を破られる忍者というのも珍しいと、思わず同情させられた次第です。


 と、そんな色々な意味でシリアスな展開が続く中で、ラストに炸裂する爆弾は、痛快というか脱力というか…
 この展開は予想できなかった! と思わず仰天すると同時に、彦馬と織江の行く先に灯った小さな希望の灯りの存在に、ホッとさせられました。

 よりによってお前かよ、と突っ込みたくなる気分も同時にあるのですが…いやはや、全く油断できないシリーズであります。

「宵闇迫れば 妻は、くノ一」(風野真知雄 角川文庫) Amazon
宵闇迫れば  妻は、くノ一 6 (角川文庫)


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2009.12.30

「天下一!!」第1巻 ギャップを越えて生き延びろ!

 実家が古武術道場を営む女子高生・武井虎は、ある日城跡でおかしな着ぐるみ男から逃げるうち、戦国時代に紛れ込んでしまう。元の時代に戻るためには信長を本能寺で生き延びさせねばならないと知った虎は、元の時代に帰るため、小姓として信長の元に近づくが…

 高校生+タイムスリップというのはよほど相性が良いのか、先日ちょっと思いつくままに挙げてみたところ、高校生がタイムスリップする時代漫画が、現在連載中のもので少なくとも五つもあることに気付き、驚いてしまいました。
 そのうちの一つが、「八犬伝」や「デアマンテ」など、時代漫画でも活躍する碧也ぴんく先生による「天下一!!」です。

 本作、「フツーの女子高生・虎は、なぜかタイムスリップ、気がつくとそこは戦国時代だった!! 信長に気に入られ、超美形有能小姓集団の一人としてもぐり込んだ虎を待つものは……!?」というAmazonの内容紹介や、美形たちが麗々しく並んだ表紙を見ると、何やらキラキラフワフワした内容(?)を想像してしまいますが、しかしそれで決して終わらないのが、碧也漫画の碧也漫画たるゆえんであります。

 本作でまず印象に残るのは、戦国時代の陰の部分にも、きちんと目を向けている点でしょう。
 最近は…いや昔から、戦国時代、特に戦国武将を中心に描いた作品は、戦国時代の格好良い部分、威勢の良い部分が強調されますが、しかし現実には、彼ら英雄、強者の陰で悲惨な扱いを受けていた人々がいたこともまた事実。
 戦で命を奪われるだけでなく、財を奪われ、犯され、奴隷として売られ…本作でタイムスリップした主人公・虎の目にいきなり飛び込んでくるのは、そんな戦国時代の現実であります。
(というより、いきなり主人公が人狩りにあって売り飛ばされるというハードコア展開)

 虎は、かろうじて命拾いした彼女は、生き延びるため、元の時代に戻るため、信長の元に近づくことになるのですが、そこで彼女は、小姓に扮することなります。。
 小姓、すなわち男に扮するというのは、偶然か必然か彼女の容貌が信長の今は亡き小姓と瓜二つであったことも大きいのですが、それ以上に、ぶっちゃければ、自分の操を守るため、であります。

 戦国時代の陰の部分を描くことにより、女が男に扮するという――フィクションでは全く珍しくないものの――無理のある展開を通し、さらに信長に近づいてからの、(一見ではありますが)華やかな世界とのギャップを際だたせる…この辺りの一石で二鳥も三鳥も落としてみせるうまさは、作者ならではと感じます。


 と、もちろん、作品の前提になる部分を強調しすぎてしまいましたが、もちろん、本筋は主人公の目に映った信長像や小姓生活を巡るてんやわんやであります。しかしその点も本作は史実を踏まえつつ、うまく脚色して描き出しているのが実に面白いのです。。
(男になったから操は一安心、と思いきや夜伽を命じられて…という辺りの展開など、その回避策も含め、ベタですがやっぱり面白い)

 冷静に考えてみれば存外少ない、小姓視点での物語というのも実にユニークであり、その部分だけ取ってみても、実に楽しく、そしてよく考えられている作品であると感じさせられます。


 現代と戦国時代のギャップ、戦国時代の陰と陽のギャップ、そして男と女のギャップ…様々なギャップを乗り越えて、いかに虎が生き延びて見せるのか。これは読み応えのある作品になりそうです。

「天下一!!」第1巻(碧也ぴんく 新書館WINGS COMICS) Amazon
天下一!! (1) (WINGS COMICS)

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2009.12.29

「簒奪 奥右筆秘帳」 主役二人は蚊帳の外?

 駿府で発見された神君書付を巡る暗闘はなおも続く。水戸家は御前=一橋治済を勝軍位の簒奪者として制裁を下さんとし、戦国の生き残り残地衆を送り込む。さらに、御前の配下・冥府防人にも、かつての仲間・甲賀組が迫る。一方、柊衛悟のもとには、破格の婿入り話が…

 今年最も躍進した時代小説家は、という問いには様々な答えがあるかと思いますが、その一人が上田秀人であることは、まず異論はないと思います。
 昨年から今年にかけて、複数のシリーズを完結させ、また開始してきた上田先生にとって、現行最長シリーズの最新巻にして今年最後の単行本が本作であります。

 将軍家斉の時代、奥右筆組頭・立花併右衛門と、旗本の次男坊・柊衛吾のコンビが、幕府の権力に巣くう様々な闇と対峙する「奥右筆秘帳」シリーズも、本作で五作目。
 今回は、前作「継承」の後編とも言うべき内容で、前作で発見された、幕府の身分制度を覆しかねぬ神君書付を巡り、再び暗闘が繰り広げられることとなります。

 将軍家の血筋の――今風かつ失礼に言えば――バックアップとして機能してきた御三家及び御三卿。が、その存在こそが、時に熾烈な政争の元となったことは史実に見られるところですし、無数の時代小説の題材となっているところです。
 そして本作もその一つ。政争の勝者、将軍位を継承した者も、敗者から見れば簒奪者。
 ならばその地位を力ずくで奪っても…と暴走した末の暗闘が、本作ではこれでもかと言わんばかりに描きます。

 その暗闘の中で活躍するのは、かつて西の丸家基を暗殺し、今は一橋治済の影護りの冥府防人。これまでも衛吾のライバルとして立ちふさがってきた男ですが、本作での、圧倒的な戦闘力で暴れ回る姿は、本作の主人公と言っても違和感ないほどであります。


 …と、その一方で蚊帳の外になってしまったのは、衛吾と併右衛門の主役二人。暗闘のレベルが一段上がったためかどうか、(あらすじを見てもわかる通り)本作での戦いでは、二人はほとんど傍観者の立場なのはいかがなものか。
 突然、将軍家側役に気にいられ、それに伴いガラッと変わる周囲の扱いに戸惑う衛吾の姿はユーモラスでよいのですが、しかし本筋への関わりを考えれば、素直に笑っていられません。

 上記の通り、前作の後編的内容であったこともあり、ちょっと妙な安定感を感じてしまった本作。権力の魔を巡る暗闘の部分はいつもながら良く書けているだけに、正直なところ残念ではあります。

 次々と開始された生きの良い新シリーズに対し、本シリーズものんびりしてはいられないはず。次は衛吾も物語も一気に爆発することを期待します。

「簒奪 奥右筆秘帳」(上田秀人 講談社文庫) Amazon
簒奪―奥右筆秘帳 (講談社文庫)


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2009.12.28

2010年1月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 あっという間に一年が経ち、早くも新年が目の前となりました。このブログ的には何だかのんべんだらりと一年過ごしてしまったなあという気はいたしますが、まあ次の年頑張るさ! というわけで、2010年1月の伝奇時代劇関連アイテム発売スケジュールです。(敬称略)

 まず文庫小説の方ですが、新作でこれは! というのが、ついに著作百冊を突破した朝松健の「真田幸村 家康狩り」と、シリーズが続いて本当に嬉しい柳蒼次郎の「風の忍び 六代目小太郎」シリーズ第三弾くらいというのは実に寂しいお話。
 おっと、具体的な発売日は不明ですが、早見俊の「よわむし同心信長」シリーズ第三弾も忘れてはいけませんね。も一つ、築山桂「浪華疾風伝 あかね」や、おそらく「玻璃の天秤」の続編の岡篠名桜「玻璃の舞姫」も伝奇色がありそうです。

 もっとも、新作以外でも、はやみねかおるの〈名探偵夢水清志郎事件ノート〉シリーズ番外編「徳利長屋の怪」、花家圭太郎のシリーズ久々の新刊「鬼しぐれ 花の小十郎はぐれ剣」など、それなりに気になる作品はアリ。
 また、収録作品は不明ですが、「高橋克彦自選短編集 時代小説編」にも、きっと怪奇・伝奇色の強い作品が入るのではないかと思います。

 一方、単行本の方では、皿屋敷譚をベースにした京極夏彦「数えずの井戸」が刊行。また、先日文庫で「夜光杯ノ巻」が刊行された夢枕獏の「陰陽師」シリーズは、最新刊の「天鼓ノ巻」が下旬に刊行とのことです。
 しかし個人的に楽しみなのは、輪渡颯介「浪人左門あやかし指南」シリーズの最新刊「狐憑きの娘」。本シリーズは、同月に第一弾の「掘割で笑う女」も刊行されるので、未読の方はまずこちらからどうぞ。

 武侠小説の方では、金庸作品でまだ文庫化されてなかった最後の長篇「天龍八部」がついに刊行開始となります。


 さて、小説の方が寂しくても漫画の方は盛況だったのがこれまでのパターンでしたが、一月は漫画の方も少々寂しい状況。
 気になるのが、第一巻をまだ紹介できずごめんなさいな、たかぎ七彦「なまずランプ」第二巻と、ちゃんと続刊が出て良かった! な、かわのいちろう「忍歌」第二巻くらいというのがまた何とも…

 もっとも、最近時代漫画づいているコミックバンチからの「天翔の龍馬」第一巻「義風堂々!! 直江兼続」第五巻はやはり気になるのですが…

 また、順調に刊行されてきた秋田書店版の白土三平選集は、「ワタリ」第三巻と「風魔」をもってめでたく完結。どちらも忍者アクションの傑作だけに、未読の方はこの機会にぜひご覧いただきたいものです。


 ゲームと映像作品も、フロムの小遣い稼ぎがあるくらいで、取り立てて目立つものはなし。

 おや、文庫新刊の中に、「朧村正 鳥籠姫と指切りノ太刀」とあるのは、これは…




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2009.12.27

「軒猿」第3巻 三つ巴の戦いの中で

 長尾景虎(上杉謙信)配下の忍び衆・軒猿と、その軒猿に新たに加わった少年・旭の活躍を描く戦国アクション「軒猿」の第三巻が発売されました。
 この巻から描かれるのは景虎の関東侵攻。北条氏康を、そして武田信玄を向こうに回しての激戦の背後で、忍びたちの三つ巴の死闘が展開されます。

 北条氏の圧迫により越後に逃れてきた関東管領・上杉憲政を奉じて、関東に攻め込んだ景虎。その直接の相手は北条氏康が未だ隠然たる力を振るう北条氏ではありますが、その北条氏と結び、越後を窺うのは宿敵・武田――
 まさに関東三国志の戦乱において、それぞれの家に仕える忍びたちもまた、自軍を勝利に導くために、暗躍するのは当然のことであります。

 武田の三ツ者はこれまでも旭たち軒猿と死闘を繰り広げてきましたが、北条の忍びと言えば、そう、風魔。
 風魔小太郎に率いられる風魔一党は、これまでも幾多の作品に登場していますが、本作の風魔は、数を武器とする強敵として描かれています。

 そして、集団戦を得意とし、任務のために部下を、互いを踏み台とする風魔は、時に部下の失態を我が身を持って償う一千を頭領とする軒猿とはある意味対極にある存在。
 この辺りの対比は、苛烈な忍びの世界を描きつつも、その中に浮かび上がる人間性を拾い描いてきた本作らしい視点と感じます。

 そんな中で、軒猿として己の任務を果たすべく懸命に力を尽くす旭ですが――それがために今回も「痛い」目に遭ってしまうのを何と評すべきか。

 軒猿として少しずつ成長していく旭が、しかし心身を削っていく姿は、成長の代償というにはあまりに痛ましいものがあります。

 これからいよいよ激化していくであろう忍びたちの三つ巴の戦い。
 せめてそのまっすぐな人間性を失わないでいて欲しい…と忍びに対して思うのもおかしな話ですが、これは作者の術中にはまっているということでしょう。


 ちなみにこの巻で初登場する武田信玄は、おそらくこれまでのどの信玄像とも異なる、実に印象的なキャラクター造形。
 景虎もかなり異色の造形でしたが、この辺りも本作の油断できないところであります。
(風魔小太郎はちょっと外した感がありますが…)

「軒猿」第3巻(薮口黒子 集英社ヤングジャンプコミックス) Amazon


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2009.12.26

「変身忍者嵐」第24話 「恐怖怪談! フランケンの首が笑う」

 伊賀忍者の命懸けの戦いを信じ、魔神像の在処を示す密書をタツマキたちに託す木こりの姉弟。魔神像に向かう伊賀忍者たちだが、その前にフランケンが出現、タツマキを除き皆殺しにされる。ハヤテに救われ山寺に担ぎ込まれたタツマキは、己を恥じて寺を抜け出すが、再びフランケンに襲われる。死を装って逃れたタツマキは、住職の正体がフランケンであることを暴き、フランケンの罠からハヤテたちを救う。タツマキたちを月の輪に託し、嵐は嵐イナズマ縛りでフランケンを倒すのだった。

 さて、霧ヶ峰の大魔神像の在処を示す密書を巡る戦いの、後編とも言うべきエピソードです。
 と言っても、密書を巡り江戸までの道中双六…と思いきや、前回あれだけ固くなだった木こりの姉弟があっさり気持ちを切り替えたおかげで、冒頭で密書をゲットしてしまったタツマキたち伊賀忍者。
 勇躍、西洋妖怪の本拠壊滅のために魔神像に向かう彼らの前に現れたのは、今回の敵となる西洋妖怪フランケンであります。

 原作は確か19世紀のお話なので江戸時代初期(おそらく)に登場するのはちょっとアレなのですが、まあ13魔族の一つフランケン族の一員なのでしょう…と思ったらあれはフランケンシュタインの怪物の子孫なのでダメか。いやもうツッコまないでおきましょう。
(なお、初登場シーンでは悪魔道人の術で復活するのですが、これは眠りについていたということなのかな)

 それはさておき、この江戸時代に現れたフランケン、顔だけいわゆるフランケンマスクというビジュアルのため、西洋妖怪というよりむしろサソリ軍団チックですが、しかし初登場が雲水姿というのが素晴らしい。
 「アイアムフランケン」とか名乗るキャラが雲水姿! この和洋折衷っぷりは本作ならではの味であります。

 そして、これまで登場した西洋妖怪たちがそうであったように、本作のフランケンもまた、原典にないオリジナルの超能力――自分の体をバラバラにして襲いかかる能力をもって、嵐たちに襲いかかります。
 フランケンの首が吹くオカリナの音に乗って、五体バラバラになったフランケンが襲いかかる場面は、残念ながら特撮技術、撮影技術のイマイチさがあって実際のビジュアル的にはちょっと…ではありますが、しかしアイディア的には実に面白い。
 おそらくはフランケンシュタインの怪物が死体を繋ぎあわせて作られたことから連想したのだと思いますが、こうしたセンスは大好きです。

 さらにこのフランケン、変身能力まで持っているのが恐ろしい。フランケンシュタインの怪物は、己の醜い姿を恨んで暴れまわりましたが、こちらのフランケンは普通に山寺の住職に化けて、ハヤテたちに毒入りのお茶を飲ませようと企みます。
(ちなみに、もう一人、ご丁寧に往年のフランケンシュタイン映画に出ていたイゴールを彷彿とさせる不気味な寺男にも化けるのが面白い。住職と寺男、どちらかがフランケンかと思ったら両方だった! というのもグッド)

 さて、クライマックスの対決シーンには毎回突然現れる謎の男・月の輪ですが、今回は、寺の一室でフランケンが正体を現したところに、「話は聞かせてもらったぞ!(ガラッ」的なタイミングで襖を開けて登場。
 いつもは便利アイテムや助言でフォローしてくれる月の輪ですが、今回はハヤテ以外を逃がすという地味な役どころで、その代わりと言うべきか、嵐の新必殺技「嵐イナズマ縛り」が炸裂。分離して襲いかかるフランケンの動きを封じた上で、見事フランケンを倒したのでした。

 しかしこの二回のゲストキャラである木こりの姉弟、カスミ・ツムジと構成がかぶるので目立たなかったなあ…


今回の西洋妖怪
フランケン
 魔神像の在処を示す密書を手に入れた伊賀忍者たちに襲いかかった怪力の西洋妖怪。口から炎を放ち、指先からは鉄砲を連射する。五体をバラバラにされても行動可能で、首が吹くオカリナの音に乗せて、体のパーツを襲いかからせる。また、人間への変身能力を持ち、山寺の住職と不気味な寺男に化けた。
 嵐との対決では首と胴体の二手に分かれての攻撃で嵐を苦しめたが、「嵐イナズマ斬り」で首と胴体の動きを封じられた上で叩き斬られた。


「変身忍者嵐」第2巻(東映ビデオ DVDソフト) Amazon
変身忍者 嵐 VOL.2 [DVD]


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2009.12.25

「外道忍法帖」 矛盾と愛に満ちた結末の言葉

 天正使節団がローマ法王より下賜された百万エクーの金貨。その在処が、十五人の切支丹の処女の胎内に隠された鈴に記されていることを知った松平伊豆守は、天草扇千代率いる伊賀忍法を修めた天草一族に探索を命じる。一方、その情報を知った由比正雪も、財宝奪取のため配下の甲賀忍者を放つ。十五対十五対十五の三つ巴の忍法合戦のゆくえは…

 名作再紹介シリーズ。山田風太郎先生の忍法帖の中でも、独自の位置を占める長編であります。

 独自の位置というのはほかでもない、忍法帖シリーズ数ある中で本作は忍者の登場数でトップを誇る作品(逆無双状態の「海鳴り忍法帖」は例外として)。
 物語としては、天正少年使節が持ち帰った巨額の財宝を巡り、その在処を記した十五の鈴を巡る争奪戦というのが基本ラインですが、その鈴をそれぞれ胎内に隠すのが大友忍法を体得した隠れ切支丹の十五童貞女であり、それを奪わんとするのが、天草家再興に燃える十五人の伊賀忍者と、由比正雪配下の十五人の甲賀忍者――すなわち、大友忍者十五人vs伊賀忍者十五人vs甲賀忍者十五人、実に四十五人もの忍者が、三つ巴のトーナメントバトルを展開することとなります。

 さらに十五童貞女の上に立つ謎の女性・マリア天姫の存在も絡み、忍法合戦+秘宝争奪+謎解きという、およそエンターテイメントとしては極上の材料が揃った本作なのですが――しかし、どうにも個々の忍者のキャラクター、そしてバトルの書き込みが薄い、というのが正直なところ…

 分量としては忍法帖としては平均的なレベルでありながら、その中で際だって多い人数の忍者を、それも3ウェイで戦わせるというのは、これはさすがの山風先生であっても、やはり無理があったというべきでしょうか。何しろ、最大のお楽しみである個々の忍者の忍法すら、出せず仕舞いで終わる者が一人や二人ではない状況ですから…
(どうしてこうなったかには色々と見方があるかもしれませんが、これだけの人数がいながらトーナメントバトルが開催されるのが全体の三分の一過ぎであることやバトル初戦の展開を見ていると、純粋に構成ミスのような気がします)


 と、忍法帖としては瑕疵が多い本作をあえて名作として取り上げるのは、あまりに皮肉で、美しい最後の戦いの結末を、私がこよなく好むためであります。

 本作において主役とも狂言回しとも言える立ち位置を占める天草扇千代が、ついに知ったマリア天姫の正体。その罠に嵌り、最後の勝利が天姫にもたらされようとした時に、扇千代が選んだ道――そして何よりも、その時に彼が呟く最期の言葉、その矛盾と愛に満ちた言葉に秘められた彼の想いが、こちらの胸を打つのです。
 山風作品には結末の台詞が印象的な作品が実は多いのですが、その中でもこれは屈指の台詞の一つと、私は信じている次第。

 そして彼にそれを言わしめたヒロインもまた、ある意味山風ヒロインの極とも言うべき存在でしょう(三田誠広先生絶賛)。ここでやはり分量不足によるインパクトのなさが悔やまれる、というのは置いておくとして…


 偏った感想ではありますが、「人数多すぎ」という文脈のみで語られることの多い本作が、決して単なる失敗作ではないと感じていただければ、と思います。

 まあ、ラスト一行は別の意味でこちらの胸を打つのですが…

「外道忍法帖」(山田風太郎 河出文庫) Amazon
外道忍法帖―忍法帖シリーズ〈2〉 (河出文庫)

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2009.12.24

「おらんだ左近」 連作短編に見る一流の技

 夜盗の素走り佐平次が出会った馬車を乗り回す不思議な浪人。長崎でオランダ医術を修めたことから姓を「おらんだ」、生まれた日に桜が満開だったことから名を「左近」と名乗るこの浪人の正体は、江戸を出奔した尾張大納言斉朝の実子だった。身分を捨て、市井で貧しい人々に医術を施す左近は、次々と起こる怪事件に颯爽と立ち向かう。

 名作再紹介シリーズ、今回は柴田錬三郎描く颯爽たるヒーローが活躍する連作集「おらんだ左近」です。
 柴錬先生の時代小説には(純然たる短編を除き)、骨太の伝奇ロマンを描く長編の系譜と、孤独なヒーローが活躍する連作短編の系譜がある――と勝手に分類していますが、本作はその後者に属する作品。
 おらんだ左近、と柴錬ヒーロー史上でも一二を争う人を食ったネーミングのヒーロー(これに並ぶのは「きらら主水」くらいか?)が、オランダ医術と無敵の剣を武器に、様々な事件に立ち向かうという趣向の作品であります。

 収録されているのは全六作品――
 宮本武蔵を名乗る怪人との対決から、皮肉な真相が浮かび上がる左近の登場篇「海賊土産」
 曰くありげな仇討ちに巻き込まれた左近が、その背後の意外な秘密を知る「仇討異変」
 何者かに殺害された飛脚の末期の願いを聞いた左近が隠密を向こうに回す「江戸飛脚」
 記憶を失い一夜にして白髪と化した男を通して欲にまみれた人の怨念が描かれる「白髪鬼」
 宗門目付の相次ぐ暗殺事件の解明を大目付から依頼された左近が活躍する「暗殺目付」
 商家の女主人が、無関係の夜鷹に莫大な遺産を残した謎を解く「血汐遺書」

 いずれも、伝奇ものの興趣横溢、短編という制約の中で縦横無尽に奇想を巡らせた快作揃いであります。

 例えば、再読してつくづく感心させられたのが「海賊土産」。
 江戸時代に馬車で道を往くという人を食った左近の登場シーンから、こともあろうに宮本武蔵を名乗る怪人の登場、さらにその意外な「正体」で度肝を抜いておいて、そのまま一気に皮肉で残酷な結末まで持っていくという、まさに一読巻置く能わずと言うべき作品構成には、今更ながら驚かされます。

 さすがに短編ということもあって分量的な制約は感じられるのですが、それを逆手に取ったかのような物語運びのテンポの良さと、結末の切れ味の良さは、これは柴錬先生一流の技というべきでしょう。
 柴錬先生としては後期にあたる時期の作品ですが、この辺りの呼吸は、昔から変わらず――いや、より研ぎ澄まされた感があります。

 柴錬ヒーローの中では比較的明るめな左近の個性もあり、案外サラッと読めてしまうのが善し悪しな面もありますが、ウェルメイドな作風は、私は嫌いではありません。

「おらんだ左近」(柴田錬三郎 集英社文庫) Amazon
おらんだ左近 (集英社文庫)

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2009.12.23

「水滸伝」を見終えて

 さて、約半年に渡り続けてきた日本テレビ版「水滸伝」も、ようやく最終回を迎えることができました。
 私以外ごくごく一部にしか需要のなかったであろう記事ですが、もう一回失礼して、全編を通しての感想を書きたいと思います。

 最初、テレビドラマとして「水滸伝」を作ったと聞いた時は、果たしてどの程度のものなのか、まあ水滸伝マニアとしては見ないわけにはいかないだろうけれども…
 と、半分おっかなびっくりで見始めましたが、しかしそんな気分はすぐに吹っ飛び、すっかりはまってしまったのはこれまでの感想の通りですが、さてその最大の理由は、やはりキャスティングの妙にあると感じます。

 寡黙な中に熱い反骨の意志を秘めた中村敦夫の林中、華麗な中にも芯の通った勁さを感じさせる土田早苗の扈三娘、そして陰険で奸悪な大悪党を見事に体現してみせた佐藤慶の高求…
 この三人のメインキャラは言うまでもなく、梁山泊の名のある豪傑たちが、ほとんど皆、原典のイメージと違和感なく、それでいてドラマ版ならではの存在感を発揮していたのには、改めて感心します。
(メイン級のキャラで、原典とはっきり異なっていたのは武松と関勝ですが、関勝は第25回の感想で絶賛した通り、本作ならではの見事なキャラ造形だったと思います。武松は…擁護できないなこりゃ)

 ストーリーの方も、基本一話完結、長くて前後編という構成が大半の中で、長大な原典のエッセンスをうまく抽出して、再構成できていたと感じます。

 もちろん、メインキャラが下手をすると二十名近く、しかもキャストに結構な大物が含まれることもあり、毎回全員が揃うことは不可能でしたが、一人一人のキャラが強烈だったこともあり、さほど違和感を感じなかったのが正直なところ。
 ああ、今回のスタメン入りはこの豪傑なのね…という感じで受け止めることができました。
(途中で不自然にパッタリ出番がなくなるキャラもありましたが、そこは脳内でカバー! 戴宋は燕麗を失った心の傷を癒すため、積極的に地方を走ってるんだよ、とか)


 もちろん、ヒーロー活劇として作られている以上、原典の犯罪者スレスレ――というより時々猟奇犯罪者そのもの――な梁山泊のカラーはかなり薄まっていて、その辺り、原典の真面目なファンから不評なのも事実でしょう。

 しかし、勧善懲悪しながらも、豪傑たちそれぞれをきちんと血の通った存在――特に魯智深、阮三兄弟の野放図なバカ騒ぎっぷりなど実に愉快――として描くことにより、単なる四角四面の正義の味方でも、深刻ぶった革命の徒でもなく描いてみせた点は、大いに評価すべきでしょう。

 それにしても、今振り返ってみれば、質量ともに規格外れの本作が成立したのは、日本テレビ開局二十周年番組という条件もさることながら、娯楽の王様が映画からTVへとシフトしていく時期に当たっていた点も大きかったように感じます。

 その意味では、おそらくはもう二度と同じ企画はできない、一種時代の徒花的作品であったとも感じるのですが、それはそれで実に「水滸伝」らしい。
 放映当時に見ることはできませんでしたが、本作をいま見ることができた幸せを、水滸伝ファンとして強く感じた次第です。


「水滸伝」DVD-BOX(VAP DVDソフト) Amazon
水滸伝 DVD-BOX


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2009.12.22

「水滸伝」 第26回「野望、砂漠に果つ」

 高求は都に戒厳令を発し、帝を廃して高求王朝を樹立しようとしていた。高求が民衆を人質にすることを恐れる林中は、仲間たちと共に先遣隊として都に潜入、帝と言葉を交わすことに成功する。ついに梁山泊の総攻撃が始まったその混乱の中、高求は帝を殺そうとするが、林中たちが立ち塞がる。その場は逃れた高求だが、砂漠の中に次々と供は倒れ、ついに一人となる。その前に現れた林中と高求の最後の対決は林中の勝利に終わり、高求の野望も潰えるのだった。林中たちは、権力を民衆の手に戻すという決意も新たに、梁山泊に帰っていくのだった(完)

 このNTV版「水滸伝」もついに最終回。百八人揃った梁山泊と、高求の最後の対決が描かれます。

 前回、民衆からも石持て追われた高求ですが、最後の手として都・開封に戒厳令を発し、己の下に権力と財を集約。逆らう者は次々と処刑し、帝の御座す宮廷を配下の兵に囲ませるという傍若無人ぶりであります。
 梁山泊の総攻撃を前に、民衆にあえて不安を募らせ、恐怖を抱かせて力ある者=自分を頼らせようという、マイケル・ムーアが激怒して突撃取材してきそうな戦略を立てた高求の最後の目的は、高求王朝の樹立! …って何だか語呂が悪いですが、帝の陰に隠れるのではなく、自分自身で前に出ようというのは、本作の高求らしい、ある意味あっぱれな悪役ぶりです。

 その野望に対し、挑むのは林中・扈三娘・史進・公孫勝・鉄牛・花栄の梁山泊精鋭陣。色々あってメインどころの豪傑が全員揃うことはない本作ですが、この顔ぶれはさすがに最終回らしく納得のメンツではないでしょうか(ちなみに宋江は、総攻撃引き伸ばしの説得をしたりと後方支援役。本作での中間管理職的役どころは良かったですね)。
 ――あ、全員揃うことはないと書きましたが、今回、砂漠に逃れた高求を足止めするために、公孫勝が見せた幻術という扱いで、勢揃いが見れました。…オープニング映像の流用ですけどね。

 さて、ついに最後の対決となった林中と高求ですが、その第一ラウンド、高求が帝(今回も登場、若き日の水谷豊。第23回での経験があったためか、今回はずいぶんと頼もしく見えます)を殺さんとして、林中たちが割って入る場面は、林中が高求の罠に嵌められた白虎節堂が舞台。
 そしてその後、捲土重来を期して高求が逃れていく道のりは、奇しくも林中が無実の罪で流刑となった際のそれと、第1回に重なる展開となっているのが心憎い。

 思えば本作は、林中と高求、二人の対決の物語でもありました。そう考えれば、ラストに、百八人勢揃いを待つ前に、林中が高求と一騎打ちすることを望むという展開も納得であります(というか百八人揃った後、高求をどうするつもりだったのか考えるだに恐ろしい…)。
 ここで、砂漠をさすらった末にヨレヨレになった高求に水と食料を与える林中も武士の情け(?)を知る者ですが、それを断って、渇けばお前の血を啜り、飢えればお前の肉を喰らうと、水を地面に吸わせてしまう高求も、また一国を狙った悪党らしい態度。

 最後の対決は、倒れる高求を林中が刃で受け止めるような形で決着がつきましたが、この二人ならではの想いというものがあったのでは…というのは感情移入しすぎでしょうか。
 倒れた高求を見下ろして、「天下をわが物にしようとして、最後に得た物は一握りの砂だ」というどこかで聞いたような気がする林中の言葉も、実に良いのです。

 そして、一つの戦いを終え去っていく林中たち。皆、元の暮らしに戻るがいいと言いつつ、自分は権力を民衆の手に戻すまで戦い続ける! というのは――その場合、皇帝は国民の象徴ということになるのかしらん――ちょっと混乱しますが、まあラストに野暮は言いっこなし。
 悲劇に終わった原典と異なり、見事巨悪を滅ぼして凱旋する梁山泊の豪傑たち…まずは「水滸伝」一巻の終わりであります。


 ちなみに、序盤からしばしば登場した謎の梁山泊キャラ・登竜はこの最終回もしっかり登場。名前的には原典で二竜山を支配していたトウ竜か、百八星の一人の金銭豹子湯隆から来ていると思うのですが、そのどちらともしっくりこない…最後の最後にこんなことを書くのも何ですが、本当に最後まで謎のキャラクターでした。

 次回、全体を通しての感想を。


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2009.12.21

「あっけら貫刃帖」 もったいない時代活劇?

 時は享保、続発する辻斬り事件に、江戸の町は震え上がっていた。父が辻斬りの犠牲となった青年・山本青葉は、犯人と思しき男と対決するが、その正体――妖と化した刀「刀魔」に追い詰められる。そんな彼を救ったのは、子供にしか見えぬ外見ながら刀魔を討つ力を持った刀狩衆・裂鬼助だった!

 今ごろずいぶん昔の作品で恐縮ですが…
 いわゆる四大週刊少年漫画誌でも、何となく「少年ジャンプ」は時代劇漫画に冷たいという印象があります。もちろんそれは単なる思いこみで、「るろうに剣心」が大ヒットを記録したのはまだ記憶に新しいことですし、現在も――ファンタジー世界あるいはパラレルワールドではありますが――「銀魂」「NARUTO」といった時代劇を題材とした作品が人気となっています。
 にもかかわらず…というイメージがあるのは、結構な数の時代劇漫画が連載されては直ぐに消えていることがあるのではないかという気がしますが、本作もその一つ。

 徳川吉宗の時代を舞台に、戦国時代に生まれた生ける刀の妖魔「刀魔」たちと、対刀魔のために集められた隠密集団・刀狩衆の対決を背景に、ごく普通の青年武士だった青葉と、大飯喰らいの少年(?)・裂鬼助の活躍を描く本作は、紛うことなき時代伝奇もの。連載開始時は私も「おっ」と思ったものの、結果としては、連載全十二回・単行本全二巻と、典型的なジャンプの打ち切りパターンで終わってしまっています。

 人の世に隠れて魔物たちを討つ秘密組織という設定自体は、山のような数の作品で見られるものではあります。しかしながら、刀魔の設定自体はなかなかユニークかつ、ひねりようによっては色々とバリエーションを持たせることができるものだったと思いますし、人に害する刀魔を討つ刀狩衆が、決して正義の味方というわけではなく、様々な思惑を秘めた存在というのも悪くありません。そして何よりも、その両者を繋ぐ裂鬼助の存在(設定)がなかなか面白かったのですが…

 そんな本作が残念な結果となってしまった理由は、これは今となっては想像するほかありませんが、一つには、折角用意した享保という時代をうまく使いこなせず(これはストーリーが本格的に展開する前に終了してしまったようなので微妙ですが)、読者にとって舞台設定を魅力あるものとして提示できなかったこと、ひいては、その舞台設定と結びついたキャラクターのドラマを展開させることができなかった、ということがあるように思います。

 も一つ、これは時代もの抜きで言えば、裂鬼助のとぼけたキャラクターと、あっけらかん…というにはいささか重いストーリー・設定に違和感があることも大きかったのだと思います。
 個人的には、裂鬼助の「正体」をもっと早い段階――というか第一話のクライマックスから――見せていれば、また違っていたようにも思いますが…折角の美形なんだから、ねえ(安直?)


 と、十年近くも前の作品を取り上げてダメ出しばかりしてしまったようで非常に申し訳ないのですが、それでもあえて今回本作を取り上げたのは、少年漫画誌で時代ものをやることの難しさの一端が本作から透けて見えるように感じられたのと、何よりも、伝奇時代劇アジテーターとしては、本作がこのまま埋もれてしまうのが非常に勿体なく思えたからであります。

 最終話ラストで触れられた、歴史的な大事件――これこそは享保期ならでは、のものであります――の背後で繰り広げられたであろう刀狩衆と刀魔の死闘の姿を目にすることは、これは今からでは無理としかいいようはないかと思いますが、それでも描かれざる物語を想像してみたくなる…そんな作品でありました。


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2009.12.20

「空海七つの奇蹟」 迷える人々を救うトリック

 修行の旅で讃岐国を訪れた若き官人・橘逸勢は、そこで襤褸布を纏った傲岸不遜な修行僧・真魚と出会う。最初は真魚に反発する逸勢は、信じられない奇蹟を起こす真魚に興味を持ち、やがて共に旅をするようになる。虚空蔵求聞持法を求めて旅する真魚――後の空海が起こした七つの奇蹟の物語。

 「いろは歌に暗号」で探偵役を務めた空海と、その相棒・逸勢を主人公に据えた全七話の連作短編集であります。

 長編歴史推理から連作短編にスピンオフというのは、「いろは歌に暗号」の前作に当たる「金閣寺に密室」と、そこからスピンオフした「謎解き道中」の関係と同じですが、単なるミステリに終わっていないのが本作の趣向です。

 空海が諸国を放浪して様々な奇蹟を起こしたというのはよく知られる伝説であり、その中でも弘法水――空海が杖を突いたところから水が湧きだして人々に潤いを与える――は特に有名ですが、本作で描かれるのはその空海の奇蹟。弘法水の奇蹟を第一話に、彼方から物体を引き寄せ、死者を甦らせ…と奇蹟の数々が描かれます。

 もちろん、本作はあくまでもミステリ。それぞれの奇蹟については、実は合理的な種も仕掛けもあるもの。つまり空海は事件を解き明かすのではなく、トリックを仕掛ける役を務めることとなります。

 普通、仕掛けのある奇蹟、それも宗教絡みとくれば、何やらキナ臭いものが感じられますが、本作で空海が行う奇蹟は、いずれも迷える人々を救い、往く道を指し示すが如きもの。
 「嘘も方便」を地でいくような展開がなかなか面白く、そして仏教者である空海が主役を務める必然性が、ここに感じられます。

 やはり短編集だけあって、ストーリーや仕掛けもそれほど凝ったものではないのですが、このミステリとは変化球的な味付けもあって、なかなか面白く読むことが出来ました。

 ちなみに本書の最終話で空海と(間接的に)対決することになるのは、藤原薬子とその兄・仲成。
 薬子は「いろは歌に暗号」で本格的に空海と逸勢が絡むことになる相手ですが、いわばこの最終話は、そちらのプロローグ的な扱いとなっているわけで、ニヤリとできる趣向であります。

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2009.12.19

「絵巻水滸伝」第二部 招安篇完結!

 長らく感想をさぼってしまいましたが、「絵巻水滸伝」第二部が、今月更新分の第八十一回「回天」後篇をもって「招安篇」完結となりました。
 梁山泊の招安を巡り様々な思惑が入り乱れ、文字通り屍山血河を築いた死闘の果てに、梁山泊の豪傑たちは新たな運命の扉を開けることとなります。

 朝廷の招安――罪を赦される代わりに国の戦力として官軍に編入される――の求めを拒み、結果、もう一つの自分たちとも言うべき十節度使を敵に回すこととなった梁山泊。
 さらにそこに天才軍師・聞煥章、そして怨敵・高キュウが加わり、梁山泊はあわや全滅の危機を迎えることになります。

 招安を受け入れることにより、かろうじて痛み分けに持ち込んだ梁山泊ですが、完全にその地は焼け野原と化し、豪傑たちも一歩間違えれば幾人も命を失ってもおかしくなかった状態に…

 しかし最大の危機はその先にありました。招安を受け入れることを良しとしない者たちは梁山泊軍を離れ、百八人は散り散りに。さらに高キュウら奸臣は、開封の地に必殺の罠を敷き、残る梁山泊軍全滅を目論む…!


 と、ここまでが前回までのあらすじ。それを受けての今回は、結論から言えば、ここまでの重い展開を一気に覆した――とは言わないまでも、おそらくは水滸伝ファンとして、これが見たかった! と言える、満足のいく内容でした。

 運命に翻弄された末、梁山泊という安住の地を見つけた百八人の豪傑たち。
 しかしその梁山泊を失い、そして彼らの運命を狂わせた宋国に帰順することになった時――たとえ袂を分かつほどではないにせよ――彼らの依って立つものは失われ、虚しさを感じることとなったのは無理もない話です。

 そんな彼らの心に火をつけたのは、やはり同じ星の下に生まれた仲間たちであり、そしてそれだけでなく、彼らが苦難の人生の中で出会った人々だった――
 というのは、ある意味、様式美的展開ではありますが、やはり良いものは良い。
 散り散りになった仲間たちが、しかし、それぞれの心の中のやむにやまれぬ思いに突き動かされ、再び集うというのは個人的に大好きなパターンですが、それまでの展開が非常に重いものだっただけに、実に嬉しい結末でした。


 しかし、この先彼らを待ち受けているのが明るいものばかりでないのは、間違いのないところ。
 今回でも既に、将来に待ち受ける暗雲の兆しは見えているのですから…
 それでも、彼らの新たなる旅は始まりました。「絵巻水滸伝」第二部、ここからが真のスタートと言えるかもしれません。


 にしても雄さん本当に何やってんだ。何というバカップルぶり…

公式サイト
 キノトロープ/絵巻水滸伝


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2009.12.18

「風の七人」 はぐれ者たちの死闘

 優れた忍びの技を持ちながらも気儘に暮らすきりの才蔵は、かつての同僚・ましらの佐助からカンボジア行きを誘われる。現地で猛威を振るう天竜・水竜・地竜の日本人武将三兄弟を倒し、シャム王家に恩を売ろうというのだ。その挙に加わるのは妖術使いの七宝、古強者の裏切り陣内、豪剣を操る双子の群青・緑青、混血の美女さらの合わせて七人。果たして五十対七の死闘の行方は…

 名作再紹介シリーズ(正確にはこれまで紹介しそびれていた名作を発掘シリーズ)。今回は、戦国時代末期のカンボジアを舞台に、七人のはぐれ者が強大な戦闘集団を向こうに回して死闘を繰り広げる戦国アクションの名品「風の七人」であります。

 タイトルから察せられるように、本作は一種の特殊チームもの、不可能ミッションものの味わいを持つ作品。カンボジアで猛威を振るう日本人武士たちの堅固な要塞を壊滅させるため、いずれも一癖も二癖もある七人が集い、戦い、散っていく物語であります。

 主人公であり、七人の一つとなるのは、人並み優れた技を持ちつつも、人間観察が趣味というおかしな忍び・きりの才蔵。その彼と並ぶのは、才蔵の旧知であり、彼が致仕した後も真田幸村に仕える人間凶器とも言える忍び・ましらの佐助。名前と設定を見ればわかるとおり、霧隠才蔵と猿飛佐助をモデルにした二人であります。

 そして彼らの仲間となるのは、齢幾年とも知れぬ怪老人・七宝(その正体は、伝奇ものではお馴染みのあの人物!)、極め付きのへそ曲がりが災いして次々と主を替える歴戦の士・裏切り左近、宮本武蔵をも刮目させた二人で一人の豪剣の遣い手・群青と緑青、そして異国生まれの決して男に心を許さぬ美女・さら――

 この、設定を見るだけで胸躍るような七人が活躍をするわけですが、しかし本作に痛快なだけでなく、一種哀切な味わいを与えているのは、彼らが――そして彼らと対峙する天竜らもまた!――いずれも世間からはぐれ、行き場を無くし、あるいは求める者たちである点によります。

 秀吉の、そして家康の天下統一は、確かに日本から戦を無くし平和な世界を築きましたが、しかし同時に、それまで日本に存在したある種の自由な世界を、安定した社会の名の下に消滅させました。
 本作で敵味方に分かれるのは、いずれもかつての世界でなければ生きれなかった者たち、新しい世界では生きてはいけぬ者たち。その、本来であれば同胞であり、あるいは手を携えていけたかも知れぬはぐれ者たちが、潰し合い、消えていく様は、去りゆく時代の挽歌というにはあまりに切ないものがあり――その切なさがまた、本作を一層忘れ得ぬ作品としているのです。
(ちなみにこの色調は、新宮正春の「ゼーランジャ城の侍」等、同時期の異国を舞台とした他の時代小説でも共通のものであります)


 しかし、本作の最大の欠点に敢えて触れれば、それはこのキャラクターたちを、物語を描くのに、ボリュームが足りないことでしょう。
 これは初読の際に感じたことであり、今回もやはり再確認させられましたが、特に個々のキャラクターをもう少し掘り下げられていれば、感動が一層深まったと感じられるだけに、残念でなりません。
 厳しいことを言えば、キャラ描写不足のため、どのキャラがどんな行動を取るか、ある程度予測できてしまうのが何とも…

 が――それであってもなお、本作のラストの感動は、それを補ってあまりあるものがあると、私は感じます。例えお約束と言われようと、ラストの佐助の言葉に涙せぬ者があろうか!
 と、些か冷静さを失ってしまいましたが、何度読んでも、本作がそれだけのものを胸に残す作品なのは間違いないのであります。

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2009.12.17

「変身忍者嵐」 第23話「恐怖怪談! 呪いの狼男は誰だ!!」

 狼男に襲われ瀕死となった伊賀忍者から、大魔神像の在処を記した密書を託された木こりの姉弟。江戸の伊賀屋敷に向けて旅する姉弟と接触するタツマキだが、姉弟は信用せず、仕方なく陰ながら護衛に付くことになる。が、殺した相手に化ける能力を持つ狼男に次々と殺されていく伊賀忍者たち。影までは姿を変えられないことを見抜いた嵐により正体を暴かれる狼男だが、その不死身の肉体に嵐も苦戦。しかし、狼男の弱点である銀の太刀を月の輪から与えられ、辛くも勝利するのだった。

 西洋妖怪編第三回の今回と次回で描かれるのは、西洋妖怪の本拠・飛騨霧ヶ峰の大魔神像の在処を記した密書の争奪戦。この西洋妖怪編(正確には化身忍者編のラスト)から、血車党に抗する勢力として活躍(?)する伊賀忍者たちが、今回も重要な役割を果たします。

 ドラキュラ、ミイラ男ときて、今回登場する西洋妖怪はまたもメジャーどころの狼男。しかし前回のミイラ男同様、その能力に一ひねり加えた上に、ストーリー上もその能力が係わってくるのが面白いのです。

 本作の狼男が持つのは、殺した相手の姿に寸分違わず変身する能力。
 この能力を利用して、密書を運ぶ木こりの姉弟(一度血車党が化けた伊賀忍者に襲われているため、タツマキたちを信用せず、江戸まで正直に運ぼうとするという展開がまたうまい)を護る伊賀忍者たちに近づき、一人抹殺してはその姿を奪い、また一人殺しては…という展開であります。

 仲間と同じ姿に化けた敵忍者が…というのは、これはもう忍者ものの美しい伝統ですが、今回はそれを狼男がやってのけるというのが実に面白い。
 元々狼男は、普段は人間の姿をしている者が、奇怪な怪物に変身する――そして人間の姿をしている限り、誰が怪物かわからない――という点に恐怖の一端があるかと思いますが、その恐ろしさをこの忍者ものの定番に結びつけてみせたのは、まさに本作でなければできないことでしょう。

 しかもこの狼男、姿だけではなく、相手の技術まで奪い取ってしまうという強敵。柳生新陰流を操る狼男などというのも、おそらく本作のみ…というのは、何をしでかすかわからない作家がいるので断言できませんが、とにかく希有の存在でありましょう。


 …が、それで今回のエピソードが傑作であったかというと、そうでないのが悲しいところ。前々回同様、夜の場面で画面が暗すぎて何をやっているかわからない――天井から逆立ちでぶら下がって狼男と対決するハヤテという面白いシーンもあるのが勿体ない――というのもあるのですが、何よりも、変身した狼男の跳梁の辺りの演出がいまいちなため、狼男の能力に恐怖が感じられないのです。

 この手のストーリーでは、誰が怪物なのか、誰が化けられているのかがわからない点が、面白さのキモだと思うのですが、何よりも化けられている伊賀忍者たちの描写が今ひとつ――ぶっちゃけると誰が誰だかわからないので、殺されたり化けられたりしてもあまりこちらにインパクトがないなのが何よりも問題かと思います。

 まあ、三十分の子供番組でこの辺りをどこまで描写できるかは難しいところかとは思いますが、折角個性的な敵の能力と、物語展開がうまく絡めてあっただけに、実に勿体ないとしか言いようがありません。


今回の西洋妖怪
狼男
 大魔神像の在処を記した密書を追う西洋妖怪。殺した相手の姿と技術を奪い取る能力を持ち、次々と伊賀忍者たちを殺していった。口からの超音波「狼破壊叫び」や、その咆吼で岩を崩す「岩石こだま崩し」を操る。
 人工の光でできた影には本来の姿が現れてしまうため、龕灯で照らされて正体を現すが、銀の武器以外で負わされた傷はあっという間に回復するため嵐を圧倒。しかし唯一の弱点である銀の武器を月の輪に与えられた嵐の前には無力だった。


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2009.12.16

「風が如く」第5巻 本当の強さとは――

 いよいよ快調な五右衛門一派の大冒険、「風が如く」の第五巻は、仏の御石の鉢を巡っての死闘、鬼ヶ島編の完結編であります。

 仏の御石の鉢の邪気を浴びて元の姿…はおろか、完全に怪物と化した柴田勝家こと勝鬼をを向こうに回して戦うのはもちろん五右衛門。そしてその間に、奈落に落ちた仏の御石の鉢を求めて、ワープくんたち五右衛門一派が挑むという、実に少年漫画として正しい展開であります。

 もちろん、鬼に勝つ鬼・勝鬼を相手に、あくまでも人間の五右衛門が挑むのはあまりにも無茶な話。そこに、かつて鬼を平らげたという初代桃太郎の謎の能力の正体が描かれ、さらには五右衛門の封印していた奥の手が…という、バトルものとしても面白いこの鬼ヶ島編ですが、しかしその中で描かれるのは、単に敵を倒してバンザイ、という単純なものではありません。

 五右衛門と勝鬼の死闘、いや鬼ヶ島編全体を通じて描かれるのは、本当の強さとは何か、というテーマ。
 単に敵を力で傷つけ、倒し、従えること――それが果たして強さと呼べるのか? という問いかけの答えは、ヘタに描けば綺麗事の模範解答にも見えかねません。
 しかし、そこに「初代桃太郎は何故、鬼を滅ぼさなかったのか?」という本作ならではの物語展開と絡めて描くことで、実に自然で、そして爽やかなものを感じさせることに成功しているのは、これはさすがとしか言いようがありません。

 しかし、真に驚かされるのはその後――決着後の鬼ヶ島に現れ、敗者である勝鬼に島もろとも制裁を下そうという信長と、勝鬼との最後の対決の結末であります。
 その内容について、ここでは触れませんが、信長と勝鬼の初対面のエピソードを敷衍しつつ、勝鬼のキャラクターを全うさせつつも、信長の中の「漢」をも感じさせる見事な結末で、波瀾万丈の鬼ヶ島編を締めるのに、まこと相応しいものであったかと思います。


 さて、連載中の展開では、信長軍二番手との対決を前に、五右衛門の封印された過去が描かれますが、これがまた実に面白い内容。五巻が刊行されたばかりですが、早く次の巻も…と、希望してしまう次第です。

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2009.12.15

「退屈姫君伝」 めだか姫、初の御目見得

 陸奥磐内藩五十万石から、讃岐風見藩二万五千石に嫁いだめだか姫。夫がお国入りして暇を持て余す姫は、退屈しのぎに屋敷を抜けて町をぶらついたり、上屋敷の六不思議の謎解きに挑む毎日。そんな中、磐内藩と風見藩の密約を田沼意次が狙っていると知った姫は、俄然張り切るのですが…

 まだこの作品を紹介していなかったか、と我ながら驚きましたが、米村圭伍先生の初期三部作の二作目にして、「退屈姫君」シリーズの第一作目、「退屈姫君伝」であります。

 三部作の第一作目にして作者のデビュー作である「風流冷飯伝」に続く本作は、前作の舞台である風見藩の江戸屋敷にお輿入れしたやんちゃな姫君・めだか姫が、前作にも登場したへっぽこ隠密の倉地政之助や、その後のシリーズでも重要な役割を果たす山猿娘のくノ一とともに、これまた前作にも登場した田沼意次の巡らす陰謀に立ち向かうという痛快活劇。
 作者お得意の、ですます調で繰り広げられる物語は、時にシリアスな面もありますが、圧倒的にどこか暢気ですっとぼけたムードが横溢しており、最初から最後まで、安心して読むことができます。

 本作の中心になるのは、風見藩の上屋敷に伝わる七不思議ならぬ六不思議。タイトルどおり退屈な毎日を送っていためだか姫は、この謎解きに俄然張り切るのですが、その謎の一つ一つは、貧乏藩ながら人情味溢れる風見藩に相応しいものばかり。
 そんな良くも悪くも卑近な真実に、こちらも思わず吹き出したり呆れたりしてしまうのですが、しかし、あれよあれよという間に内容がスケールアップしていき、ついには藩の存亡に関わるお話になってしまう米村マジックはここでも健在であります。

 しょうもない不思議の数々が、いつしかめだか姫の異例の輿入れの理由や、田沼意次の陰謀に繋がっていく終盤の展開には驚かされましたが、その末の絶体絶命の窮地を、人々の絆と、そして何よりも悪戯心で乗り越えてしまうのにはさらにビックリ&ニッコリ。


 個人的な趣味を言えば、いちいち下にまつわるネタを入れてくる米村作品のオヤジ臭い目線はどうにも感心できないのですが、しかし、キャラクターとストーリー展開の妙でもって、そんなこだわりを小さい小さいと笑い飛ばすような本作の――そして米村作品共通の――楽しさには、悔しいけれども脱帽です。

 冒頭に述べた通り、本作は初期三部作の一つであると同時に、そこからスピンオフしてめだか姫を主役としてシリーズ化されることになったわけですが、それも納得の楽しさ。このブログでも、今更で恐縮ですが、今後一作一作取り上げていく所存です。

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退屈姫君伝 (新潮文庫)


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2009.12.14

「水滸伝」 第25回「山東に立つ最後の猛将」

 高求に召還され都に向かう西域守護指令・関勝。が、後事を任せた魏定国は匈奴の王・冒漸に討たれ、関勝も追い詰められてしまう。そこに割って入った林中は、助けたのが近衛軍官学校の同期だった関勝と知り驚く。林中の言葉を振り切り都に向かった関勝に対し、高求は関勝を騙って林中を都に誘き寄せたことを語り、林中を討てと命じる。しかしかつて想いを寄せた小蘭を死に追いやったのが高求であることを知り、さらに人質とされた単廷玉を斬られた関勝はついに官軍を見限る。関勝を迎え、ついに梁山泊に百八人の豪傑が集った――

 ついに最終回一話前を迎えた「水滸伝」。「山東に立つ最後の猛将」という実に格好良いサブタイトルが指すのは、今回のゲストキャラ、大刀関勝であります。

 林中とは共に学んだ仲であり、そして小蘭を争い、敗れて都を捨て、西域で十年戦ってきたという実においしい設定の関勝を演じるのは若林豪。
 相変わらずの(?)男臭さで活躍する若林関勝ですが、これがまた実に格好良い。

 一見、豪毅な軍人タイプでありながら(初登場シーンからして、肩を敵に射抜かれて単廷玉に自分を足で踏ませて矢を抜かせるハードコアっぷり)、部下を思いやり、そして敵の心中をも忖度する度量のある人物で、まさに最後の敵として、梁山泊の、林中の前に立つに相応しい人物であります。

 そんな彼の心の唯一の傷が、小蘭が林中の妻となったこと。小蘭は既に物語中で非業の死を遂げていますが、その原因である高求は、卑劣にも彼女を殺したのは梁山泊と謀り、関勝を焚きつけます。
 それにあっさりと乗せられてしまう関勝も関勝ではありますが、しかし、軍人の顔の下に隠れた人間臭さも若林関勝の魅力。

 そして、小蘭の死の真相を聞かされ、そしてただ一人残った部下・単廷玉を失い(まあ、これは深手を負って苦しんでいる単廷玉に関勝自身がとどめを刺したのですが。そしてこのシーンのテンションの高さがまた異常)…いわば己の人間的な側面を象徴するものを奪い取られた関勝の怒りが爆発するラストの迫力たるや――
 据わった目で「そこどけい! そこどけい!!」と連呼しながら当るを幸い叩き斬りまくる無双ぶりは、間違いなく今回のハイライトであります。

 実を言えばこの若林関勝、原典での関羽の子孫で先祖同様の美髭の持ち主という設定とは全く別物なのですが、しかしある意味…いやはっきりと原典以上にキャラが立っているのは、これはもう演じ手の勝利と言えるのではないでしょうか。

 そして今回関勝の忠実な部下として登場した魏定国と単廷玉(原典での単廷珪でしょう)。こちらも原典とは全く異なるキャラクターですが、一度は命を救われた敵を殺せず、それを自分の命で贖うこととなってしまった魏定国、己が人質となって関勝を縛るのを潔しとせず、関勝自身に止めを刺されて散っていく単廷玉と、どちらもなかなか印象的な描写でした。


 さて、最後の猛将・関勝をもって百八人勢揃いした梁山泊の豪傑。同じ回で魏定国と単廷玉が死んでいますし、これまでも仲間入りせずに去った人死んだ人、原典とは同名異人の悪役・脇役となっていた人、そもそも登場すらしていない人等々色々ありましたが、百八人揃ったとナレーターが言っているのだから仕方ない。

 ついに勢揃いした梁山泊と、完全に独裁者としての貌を露わにした高求(でも今回ラストで民衆に石をぶつけられながら這々の体で逃げる)…決戦の時が来た!


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2009.12.13

「玻璃の天秤」 揺れ動く心の天秤

 品物の声が聞こえる力を持ち、海の向こうの国へ行くことを夢見る堺の貿易商人の娘・芽々。ある日、ライバル商人が太閤に珍しい品を献上すると聞き、探りに行った先で彼女が出会ったのは檻の中の異国の美少年・シオだった。自分を盗み出して欲しいというシオに、彼女は…

 安土桃山時代末期の堺を舞台に始まる、時代ロマンス(?)のおそらくはシリーズ第一弾であります。
 少女小説で時代ものというのは決して珍しいことではありませんが、しかし本作の主人公・芽々はその中ではちょっと変わり種。深窓のお姫様や姫武者などではなく、堺の貿易商人のもとで育ち、自分も天性の目利きの才を持つ女の子なのですから…

 そして、その育った環境ゆえかはたまたこの年頃の少女に共通の想いか、異国への憧れに胸ふくらませる彼女が出会ったのは、太閤への献上品として売られてきた異国の美少年というのは、なかなかあざといようにも見えますが、しかしこの少年・シオの辿ってきた、そしてこの国で辿ることになる運命は壮絶の一言。
 生まれつき体に鱗のような斑紋を持つがゆえに水神の子として扱われ、時に供物として、時に奴隷として人々の間で売り買いされてきた彼が、太閤に供されるその目的は…! と、かなりギリギリ感のある設定と展開に、コメディと思い込んでいたこちらの先入観もすっかり打ち砕かれました。

 お話としてはもちろん、芽々がシオを救い出すべく奔走することになるのですが、しかし彼女を動かすのは、単なる異国のモノへの憧れだけでなく、彼女自身の出生から来る自分のこれからの生き方と在るべき場所への懐疑であります。

 実は赤子の頃に商人の家に買われてきたという彼女にとって、家は自分の在るべき場所であると同時に、己を閉じ込める檻ともいえるもの。
 そんな彼女が、シオに自分の姿を重ねるのは、これはいかにも少女らしい感慨とは言えますが、しかし、社会との対峙――そしてそれは、裏を返せば自分が暮らしてきた家との対峙なのですが――を前にして、自分をそこから連れ出してくれるかもしれないモノを求めるのは、これは彼女に限らず、この世代の少女に共通の感情でありましょう。

 本作のタイトルとなっている「玻璃の天秤」とは、彼女の父が語った、商人が心中に持っているべきバランス感覚の象徴ともいえる存在ですが、それは同時に、このような彼女の揺れ動く心中の象徴でもあるのです。
(ちなみに、芽々の品物の声が聞こえるという能力自体は、さほど珍しいものではありませんが、その淵源を、自分の居場所を見つけたい、作りだしたいという彼女の感情に求めているところは、上記の如き彼女の設定をうまく生かしていると感じます)


 …と、なかなか興味深い設定の本作ですが、しかし結末はいささか(厳しい表現を使えば)ご都合主義的な印象。ある意味リアルではありますが、しかしもう少し少年少女の野放図なパワーというものを感じさせてくれる展開でも良かったやに感じます(特にシオ)。
 この辺り、子どもたちが想像するほど世の中は悪くないよ、大人だからできることもあるんだぜ――という風に解釈するのは…やはり好意的に過ぎるかな。


 冒頭に述べたように、本作はシリーズ化が予定されていますが、さて檻から飛び出した二人が、本当に在るべき場所を見つけることができるのか――場所そのものよりも、その過程が気になるところです。

「玻璃の天秤」(岡篠名桜 集英社コバルト文庫) Amazon
玻璃(びいどろ)の天秤 (コバルト文庫)

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2009.12.12

「九十九眠るしずめ 明治十七年編」第4巻 独りぼっちで見えたもの

 またずいぶんと間が空いてしまったような気がしますが、「九十九眠るしずめ 明治十七年編」の第四巻にして最終巻(あくまでも明治十七年編の、ですが)が刊行されました。

 新たな敵方の将として登場した土方歳三を向こうに回しての戦いはいよいよ激化、行方不明となったしずめの父を追って舞台は京に移ります。

 京に着いて早々知らされたのは、父が深手を負って消えたことと、味方であるはずの安倍家が敵方に付いたこと。
 さらに土方の攻撃により、しずめは一人仲間たちと引き離され、勝手の分からぬ京の地をさまようことに――

 これまで数奇な運命を辿りながらも、周囲の人々の力を借りて立ち向かってきたしずめ。
 その彼女が独りぼっちとなって、我と我が身を振り返った時、何が見えてくるのか…

 人外の力、強すぎる力を持った時、人はどのように歩むべきなのか――これまで他の高田作品でも描かれてきたテーマが、しずめとある意味鏡合わせの存在である安倍家の兄妹との対比も含めて、ここでも描かれることになります。
(この辺りは、前の巻の感想で触れた、史実上の人物に本作のキャラが食われるのではないかという心配への一つのアンサー…というのは牽強付会に過ぎましょうか)

 しかし、三歩進んで二歩下がるのが人生。自分の往くべき道を見つけたかに見えたしずめをクライマックスで襲うのは、また過酷な運命…
 土方も予測不能な動きを見せ始めて、ここで明治十七年編終了、というのは何と殺生な!

 と言いたくなるのは、これはもちろん作者の術中に陥ってしまったわけですが、そんな作品を読めるということは、もちろん幸せなことであります。

「九十九眠るしずめ 明治十七年編」第4巻(高田裕三 講談社ヤングマガジンKCDX) Amazon
九十九眠るしずめ 明治十七年編 4 (KCデラックス)


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2009.12.11

「親鸞の不在証明」 ラスト数ページの大逆転

 一休、空海にまつわる謎を解き明かした六郎太と静は、親鸞ゆかりの寺で、親鸞にまつわる謎を解き明かそうとする。その前に現れた蓮如は、六郎太に自分が出会った、因習に縛られた村での陰惨な連続殺人事件の様を語る。蓮如が解き明かした事件の謎とは、そして親鸞の恐るべき秘密とは…

 「金閣寺に密室」「いろは歌に暗号」と刊行されてきた、歴史推理シリーズの第三弾の題材は、親鸞。「密室」「暗号」ときて、次は「不在証明(アリバイ)」と来たか…と思うと意外な背負い投げを食らう、一筋縄ではいかない作品であります。

 前二作同様、今回も狂言回しの六郎太・静コンビが、題材となる名僧ゆかりの寺を訪れて、そこで意外な歴史の秘話を聞く…というスタイルかと思えば、本作はいささか趣を変えて、物語られるのは親鸞ではなく蓮如の、それも蓮如自身が体験したある事件の物語。

 とある村の豪農の未亡人に見初められ、婿入りした男・寛八郎が巻き込まれることになったのは、奇怪な鎧武者による連続殺人事件。使用人たちが次々と不可解な死を遂げ、謎の前夫の影に怯える寛八郎は、偶然村に立ち寄った蓮如に、真犯人捜しを依頼することとなります。

 因習に縛られた村に訳ありの名家、何かを隠しているかのような使用人たちに札付きの親族(さらに言えば犯人は○○)と、今日日珍しいほどまでに横溝正史テイスト溢れる本作ですが、この設定に一目瞭然な通り、史実に隠された謎を名僧が解き明かすという前二作とは異なり、本作では、史実とは無関係の事件を、名僧――といってもタイトルに冠されているのとは別の名僧が――解決するというスタイルとなっています。

 個人的には、ミステリの形を借りて、前二作のアクロバチックに史実の裏側を探り、描いていくという手法が好きだっただけに、本作でそれが無くなってしまったのは、大いに不満ではありますし、最大の欠点(と敢えて言わせていただきますが)だと感じます。

 しかしながら、ラスト直前まで、全く無縁に思われる事件の顛末が綴られた上で、ラスト数ページで一気に親鸞に秘められた巨大な秘密とそれが結びつけられるという趣向は、これはこれで面白い。
 結末まで来て、初めてタイトルの本当の意味がわかるというのは、実に好みであります。


 シリーズとしては相当苦しいところまで来てしまったな、という印象は正直なところありますが、さて六郎太と静が出会う第四の事件は誰にまつわるものなのか…その点だけでも大いに興味が湧くところであります。


 ちなみに、作中に登場するある身体的特徴を持つ人物のその後が、結末でしれっと描かれているのが実に面白い。
 あまりにもさり気なさ過ぎるのと、何よりも年代的に矛盾があるため(親の世代と脳内補完)、ネット上の感想を見てみても、ほとんど気づかれていないようですが…

「親鸞の不在証明」(鯨統一郎 祥伝社ノン・ノベル) Amazon
親鸞の不在証明 (ノン・ノベル)


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2009.12.10

「伴天連XX」 異形の腕が唸るクトゥルー時代劇!

 江戸の町で囁かれる河童の噂――それを知った浪人・無命獅子緒は、河童を追って佃島に赴く。自分の書いた記事の真相を確かめるため彼に同行した瓦版屋・番太郎が見たものは、海から現れる奇怪な怪物の群れと、それに立ち向かう獅子緒の左腕に隠された異形の存在だった…!

 最近ではすっかりwebコミックというものが定着して、紙媒体だけチェックしていると思わぬ見落としがあったりします。ファミ通コミッククリアで連載されている本作「伴天連XX」も、そんなwebコミックの一つ。
 江戸時代を舞台に展開される本作は、何と時代劇にしてクトゥルー神話作品、江戸に迫る邪神の影に、奇怪な「腕」を持つ浪人・獅子緒が挑み、異形のバトルを繰り広げることとなります。

 現時点ではまだ第二話までの公開で、まだまだ設定紹介編といったところですが、とにかく主人公(おそらく)の獅子緒の設定がが凄まじい。
 元は主持ちの侍ながら、ある事件が元で命を落とし、異形の左腕を授かって復活した獅子緒。彼の巨大な左腕を包む晒布の下に秘められたものとは…

 その、誰もが――クトゥルー神話ファンであればなおさら――何じゃそりゃあ! とひっくり返るほどのその正体のインパクトの前には、あらゆるツッコミは無力化するとしか言いようがありません。


 個人的には、クトゥルー神話を日本に、それも時代ものとして導入することについては、大いに魅力を感じつつも、安易な扱いには批判的なスタンスを私は持っています。
 それは、20世紀初頭のアメリカに生まれた作品世界を時代も文化も異なる世界に導入することの違和感、難しさを感じているが故ですが、その観点からすれば本作にはかなり不満があります。

 江戸時代に、おなじみの神話固有の名詞が飛び交う様は、例えるならば、ダーレスの神話作品で、秘められているはずの神話知識が、キャラの口からペラペラと喋られるのに似たガッカリ感を感じさせるのです。


 しかし、それでもなお、先に述べた通り本作ならではの独自性、インパクトは、実に魅力的に映るものであり…そして、この先の展開を見てみたい! と感じさせられるのです。

 第二話のラストでは、タイトルの「伴天連XX」が差すであろう人物――また色々と突っ込みどころがありそうな――も登場しましたが、ここまで来たら、小うるさいマニアを黙らせる勢いでどんどんフカして欲しいものだと願っているところです。

「伴天連XX」(横島一&猪原賽 ファミ通コミッククリア連載中)

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2009.12.09

「大江戸!! あんプラグド」第1巻 意外にしっかり押さえてます

 現代のロック少女・紅林アキは、大遊寺でのゲリラライブの直前、雷に打たれてしまう。意識を取り戻した彼女がいたのは、天保五年の江戸――寺に伝わる伝説の天女に祭り上げられたアキは、茶屋の怪力娘・おなつ、吉原の人気花魁・初音、天才少女・ふゆの三人と共に千人の人々を救う使命を課せられて!?

 最近は携帯コミックというメディアもすっかり定着してきた感がありますが、本作「大江戸あんプラグド」はその中でもユニークな作品。
 天保の世にタイムスリップしてしまった現代の女子高生が、天女として大活躍するというお話であります。

 強引に天女に祭り上げられてしまったものの、主人公・アキは特殊な能力があるわけでもなく、ロックを愛するごくごく普通の女の子。
 それでも、天女が千人の人々を救って天に帰ったという伝説に一縷の望みを託し、それぞれ生まれも育ちも異なる三人の少女とチームを組み、人助けに奔走する、というのが本作の基本設定です。

 女子高生といえば、何故かタイムリープに巻き込まれる率が極めて高いことで知られるわけで、その意味では本作の趣向というのは、さして珍しいものではないかもしれません。
 しかしそんなタイムリープもの数ある中で本作が輝いているのは、江戸時代、天保の世の社会風俗というものを、本作が意外にしっかりと押さえていることにほかなりません。

 たとえば、以下のように――
・吉原に咲く桜は、根付いているのではなくその季節に木ごと切って持ってきている
・江戸時代の女性は脇毛を剃らない
・月代を剃っていない男は、一部例外を除けば犯罪者扱い

 トリビアルなネタの部分もありますが、例えば上に挙げた三つ目の例のように、いかにも女子高生らしい視点から「時代劇」の常識をひっくり返しつつ、同時に物語の展開にも絡めてくるものもあり、作品の軽いノリに油断していたところに嬉しい裏切りであります。

 考えてみれば、女子高生というのは最も感受性が強い時期であり、それだけにものの本質にも敏感に反応する存在。
 そう考えると、キャラクターの、ひいては読者の知識・常識と、その世界で出会う事物とのギャップの大きさからくる衝撃が物語の柱の一つともなるタイムリープものに、彼女たちが主人公として選ばれるのも頷けます。
 しかしそのギャップも、出会う世界の事物がしっかりと描かれてこそ。その点で本作は評価できます。


 一話完結スタイルのため、個々のエピソードがあっさりと解決するものばかりで食い足りなさは大いにあるのですが、そこは媒体ゆえのものもあるのでしょうか。
 その点をマイナスしても、やはり気になる作品ではあります。

「大江戸!! あんプラグド」第1巻(稲光伸二 小学館ビッグコミックス) Amazon

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2009.12.08

「大年表の大年表」リニューアル

 代表的な伝奇時代劇の設定年代と、その時期の主な歴史的事件、人物の生没年を記載した「大年表の大年表」をリニューアルしました。
 前の版をだいぶ以前に作成して以来、放置していたのを、このたび大幅に掲載作品を入れ替え、wiki化したものです。

 元々うちのサイトには、伝奇時代劇中の事件と、実際の怪談・奇談、得意な歴史的事件を各年毎に記載している「妖異大年表」という恥ずかしい名前のコンテンツがあったのですが、そちらではなかなかカバーしきれない大まかな流れを把握するため…と考えて作成したこの「大年表の大年表」

 以前作成したものから、この作品はなくても良いだろうというものを削り、この作品はなくてはというものを追加しましたが、判断基準は私のセンスのみ、というわけで、作品の取捨については色々とご意見があるかと思いますが、今後も様々に追加・変更していくものということでご勘弁下さい。

 なお、年号にリンクがあるものは、個別の年毎の記載がある年のページに、また作品名にリンクがあるものは、作品データ等の掲載されたページに飛ぶようになっています。

 すぐ上に書いたとおり、一応の形にはなったものの、まだまだ完璧とは到底言えないコーナーですが、一種の読書・視聴ガイドとして何かの参考になれば幸いであります。
「妖異大年表」そのものの更新はまたいずれ…)

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2009.12.07

「変身忍者嵐」第22話」 「恐怖怪談! 透明人間対ナゾの剣士」

 村人を奴隷として日本にピラミッドを造らせるミイラ男。それを知った伊賀忍者を惨殺したミイラ男を追うハヤテは、悪魔道人に阻まれ、炎に包まれる。一方、タツマキは下忍に化けて工事現場に潜入するも捕らわれて窮地に陥る。そこに駆けつけた嵐は、包帯を解いて透明人間と化したミイラ男に苦しめられながらも、月の輪の助けで本体を見抜き、ミイラ男を倒すのだった。

 西洋妖怪編第二回、嵐の前に現れる西洋妖怪はミイラ男。飛騨高山の山中にピラミッドを造り、エジプトから第二、第三のミイラ男を呼び寄せようとする(理論不明)怪人であります。

 その目的のためにやることは、これまでの血車党と同じ、村人を捕まえて労働力とするというものですが、しかしエジプト風の棺に収まって川を流れてきて、引き上げた村人を包帯で巻き取って僕(顔に包帯を巻いたような白いペイントが入る)としてしまう辺りは、なかなか怪奇性があってよろしい。

 また、その様を目撃した伊賀忍者を旅籠で襲撃する際も、首だけ、もしくは腕だけで出現して襲いかかるという、単純ながら映像的にもインパクトのあるもので――そしてそれがミイラ男の奥の手に繋がるのもうまい――「恐怖怪談」の名に違わぬ印象です。

 殺した忍者を、天井に張り付けにしておく――血が上からポタポタ落ちてきて、見上げるとそこには! という演出もベタですが怖い――のは、子供番組としては微妙にギリギリ感がありますが…
(さらに言えば、忍者の盃の中に、「茶碗の中」よろしくミイラ男の姿が映るのも面白い)

 また、今回は西洋妖怪の首領・悪魔道人とハヤテがファーストコンタクト。道人が巫女さんに化けているのはどうかと思いますが、水の上をひょいひょい歩いたり、杖の上の宝玉を光らせてハヤテの目を眩ませたりと、忍者とはひと味違うくせ者ぶりをアピールしていたと思います。
 しかし千年布で動きを封じられた上に、道人の術で炎に包まれたハヤテが、何ごともなかったかのように嵐に変身して飛び出してくるのはどうかと思いますが…(ここ数回、こんな感じですが)


 さてラストの対決では、ミイラ男の奥の手、透明化が登場。ミイラ男の包帯の下が透明というのは、これはやはり「透明人間」からの着想かと思いますが、サブタイトルでネタが割れてはいるものの、なかなか意外性のある組み合わせで良いと思います。(しかしこのサブタイ見ると、「透明剣士」が連想される…よね?)

 そしてその必殺技・透明固めに苦しむ嵐を救ったのは今回も月の輪。イブン・グハジの粉みたいなのを振りまくと、ミイラ男の正体が現れて…と出番は少ないながらもナイスサポートで嵐を救うのでした。

今回の西洋妖怪
ミイラ男
 エジプトから来た西洋妖怪。体に巻かれた包帯を相手に絡みつける「千年布」を武器とし、包帯を巻いた相手を洗脳して己の僕とする。包帯の下は透明人間で、千年布で動きを封じた相手を透明になって襲う「透明固め」で嵐を苦しめた。
 村人を操ってピラミッドを造り、第二第三のミイラ男を呼び寄せようとしたが、月の輪の助けで本体を見抜いた嵐に倒され、ピラミッドと共に爆発に消えた。


「変身忍者嵐」第2巻(東映ビデオ DVDソフト) Amazon
変身忍者 嵐 VOL.2 [DVD]


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2009.12.06

「御免状始末 闕所物奉行 裏帳合」 権力と相対する狼の牙

 守山松平家との諍いが元で打ち壊された岡場所の競売に当たった闕所物奉行・榊扇太郎は、その岡場所の関係者が次々と不可解な死を遂げていることを知る。目付・鳥居耀蔵の命により調査を始めた扇太郎の周辺にも迫る魔の手。一連の事件が吉原と水戸藩の繋がりにあると知った扇太郎は…

 今年八面六臂の活躍を見せる上田秀人先生が新たに中公文庫でシリーズを開始しました。

 その名も「闕所物奉行 裏帳合」。江戸時代の刑罰である闕所――財産の没収刑で、その財産の売却を司る闕所物奉行を主人公に据えたシリーズです。

 その第一巻のタイトルに付された「御免状」とは、時代小説ファン、時代伝奇ファンであればよくご存じのあのアイテム。
 しかし、あえてそのようなメジャーな――それどころか、上田作品でもかつて物語の中心に据えられたことのある――題材を採り上げるだけあって、本作は実にユニークな切り口で描かれているのです。

 本作は、一見したところでは物語展開やキャラクター配置はこれまでの上田作品と似たものに感じられます
 思わぬ役目を背負わされた剣の達人が、権力欲・財産欲に取り憑かれた者たちと対決する中で、徳川家・徳川幕府に隠された伝奇的大秘密を知るというのが、(戦国ものを除く)上田作品にほぼ共通するスタイル。
 それは、鳥居耀蔵の引きで闕所物奉行の地位に就いた主人公が、岡場所打ち壊しにまつわる謎を追ううちに、上記の御免状に関する吉原と水戸藩の秘事を知ることになり――という本作でも同様です。

 しかしながら、これまでの作品と本作が決定的に異なるのは、主人公の人物造形であります。
 本作の主人公・榊扇太郎は、純粋である意味ニュートラルなキャラクターが多かった上田作品の中では、際だったリアリストであり、己の生活のため御用商人の上前をはねるという些かダーティな――これは当時の役人からすれば常識ではありますが――部分も持つ人物です。

 下級武士として辛酸を舐め、また極め付きのエゴイストを上司に持つ彼にとって、徳川幕府への忠義は、己が依って立つべき原理ではありません。彼の行動原理は、ただ自分と、自分の守るべき者を守り、したたかに生き抜くこと…それに尽きます。

 一歩間違えれば単なる私利私欲にまみれた小人物になりかねないこの人物造形が、しかし読者の目に明白にヒーローとして映るのは、彼が巨大な権力と対峙し、その闇に屈するのでも飲み込まれるのでもなく、己をしっかりと保った上で生き延びてやろうという、強い意志の持ち主であるからにほかなりません。
 そしてそれこそが、上田ヒーローを上田ヒーローたらしめているものであることは、言うまでもありません。

 本作において、このような特異な主人公を敢えて設定した理由は、作者のあとがきから、感じ取ることができます。
 既成の価値観に安逸に己を委ねることができなくなった時代にこそ、自分自身というものを強く持たねばならない…と。

 己を無くし権力に利用されるだけの狗ではなく、己の意志で権力に相対し運命を切り開いていく狼として――孤独な戦いを始めた扇太郎の姿を、「同時代人」として、見守っていきたいと思います。

「御免状始末 闕所物奉行 裏帳合」(上田秀人 中公文庫) Amazon
御免状始末 - 闕所物奉行 裏帳合(一) (中公文庫)

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2009.12.05

「新選組刃義抄 アサギ」第2巻 一筋縄ではいかないキャラ描写!?

 作画・蜷川ヤエコ、原作・山村竜也という、時代ものファンであれば見逃せないコンビが描く新選組漫画「新選組刃義抄 アサギ」の第二巻が登場です。
 新選組ものとしてはオーソドックスな設定ながらも、巧みなキャラ描写が印象に残った本作ですが、第二巻では新選組結成には忘れてはならないあの人物が登場。これがまた一筋縄ではいかない描写に驚かされます。

 松平容保を護るため、田中新兵衛&岡田以蔵というある意味黄金コンビに立ち向かい、文字通り痛み分けとなった総司をはじめとする試衛館一同。
 その甲斐あって容保候に認められ、京都での地歩を固められるかに見えた彼らですが、浪士組には彼らの他にも一大勢力が…そう、芹沢鴨の一派であります。

 芹沢鴨といえば、言うまでもなく新選組結成期最大の悪役。媒体を問わず、どの新選組ものでも、近藤・土方・沖田に負けぬ存在感を示す芹沢ですが、本作の芹沢も実に個性的でインパクト充分なキャラクターとして描かれています。

 何しろ本作の芹沢は、普段は堂々とした風采で沈着とした態度の人物ながら、「神」というキーワードを耳にした途端、残虐で暴力的な人格に豹変するという二重人格者。
 初登場時、「これがあの芹沢!?」と思わせるような紳士然とした佇まいで現れながら、突然北斗の拳の悪役のようなテンションで凶剣を振るう姿には度肝を抜かれました。

 …と書けばいかにもトンデモない(というより邪気眼?)に見えてしまうのですが、しかし実際の作品で見れば、その画の描写の迫力から来る説得力で、思ったほど違和感を感じないのが事実。
 むしろ、一派を率いるリーダーと、凶暴な剣客と、二つの芹沢像を統合してみせた点に感心させられます。
(しかし新見の「鴨兄」はやりすぎ)

 そしてもう一人、重要人物として登場したのが、佐伯又三郎…と、さして知名度はないが謎は多いこの人物をここで持ってくるセンスにも脱帽であります。
 こちらはいかにもわかりやすい外道ぶりを初登場時から発揮していますが、さて…芹沢や長州とは色々因縁がある人物だけに、これからの動きが気になるところです。

 一方、試衛館側では、斎藤一が本格的に登場。一見天然のようでいて、実は…というひねり方がいかにも斎藤らしく感じられます。
 そして前の巻から色々と心配な藤堂君はこの巻でも沖田コンプレックスが上積みされるような出来事があって、ますます心配ですが…

 何はともあれ、それぞれのキャラが本格的に動き出した感があり、いよいよ本作の独自色が見えてきたという印象。今後の展開にも期待が持てそうであります。

「新選組刃義抄 アサギ」第2巻(蜷川ヤエコ&山村達也 スクウェア・エニックスヤングガンガンコミックス) Amazon
新選組刃義抄 アサギ 2 (ヤングガンガンコミックス)


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2009.12.04

「水滸伝」 第24回「北京の麒麟児」

 軍資金を無心する梁山泊の手紙が届き、激怒して梁山泊に向かう盧俊義。だがそれは、彼を同志に迎えるための策だった。しかし盧俊義は林中らを認めつつも、入山は固辞する。一方、盧俊義の妻・容花と通じる梁中書は一芝居打ち、容花らを人質に盧俊義に財産放棄を迫る。捕らわれた盧俊義と史進を救うため急ぐ林中。その行く手に地雷が仕掛けられたことを知った鳳仙と桃青は、懸命に地雷を取り除くが、桃青は誤って爆死、鳳仙も命を落とす。林中に救われた盧俊義は梁中書と容花を斬り、ついに梁山泊入りを決意するのだった。

 「水滸伝」第24回は、前回名前のみの登場だった最後の大物・盧俊義がついに登場。原典でも終盤登場の盧俊義ですが、今回は原典の内容をうまくアレンジし、なかなか見応えのあるエピソードを作り上げています。

 その財力と人望を、高求も恐れる北京大名府の玉麒麟盧俊義を演じるのは、日本一の総理大臣役者(?)山村聡。ビジュアル的には、本作の一応原案である横山光輝版の長い髭のイメージが強かったため、初見はちょっと違和感がありましたが、しかしその貫禄はさすがの一言。いかにも包容力ありそうな人物の大きさは、もしかすると原典以上かもしれません(というか確実にそう)。
(ただ、自信家で頭の固いのは原典から変わらないのですが…)

 原典では妻と番頭の裏切りに遭ってしまう盧俊義ですが、こちらで裏切るのは後妻の容花と梁中書。梁中書は、以前晁蓋に生辰綱を奪われて以来久々の登場ですが、容花と結んで盧俊義の財産乗っ取りを図る悪巧みを巡らせます。
(しかし本作の梁中書、高求の妹婿なのですが、その上で盧俊義の妻と通じるとは色々な意味で大した奴だ)

 その一方で、晁蓋亡き後の指導者として盧俊義引き込みを望む梁山泊は、主人の梁山泊入りを望む燕青と組んでのニセ手紙作戦で盧俊義を誘き出してしまいます。この件、原典では上記裏切りの引き金ともなっていて、あまり印象が良くなかったのですが、本作でも裏切りは起きたものの、あくまでもそれとは結果論で、原典に比べるとだいぶ印象は良くなっています。

 さて、そんなこんなの末に、容花と組んでの一芝居で盧俊義を追い詰める梁中書ですが、そこに史進が颯爽と現れてカラクリを暴く! …のはいいのですが、あっさり捕らわれてしまう盧俊義と史進。

 しかし本編の見所はこの後であります。
 牢の中で、(前回)娘の鳳仙を高求の手から救い出したのは林中や史進であったことを初めて知る盧俊義。このことを持ち出せば、自分の心を動かせたかも知れなかったのに黙っていたことに驚く盧俊義に対する史進の台詞が泣かせるのです。
「俺たちはみんなそうなんですよ…特に林中は」
 か、格好良い…この後の、盧俊義梁山泊入りを望む熱い説得も合わせて、あおい史進の面目躍如たるものがあります。

 と、盛り上がったところで今回の裏の見所。桃青を演じた菅井きん爆死。
 いやー、林中を倒すために地雷を埋めておく梁中書も梁中書ですが、それを知って自分たちで掘り出して処理しようとする鳳仙と桃青も無茶すぎる。あまりの無茶ぶりに唖然としていた矢先、ほとんどギャグシーンのようなノリで足を滑らせてあっけなくきん自爆…何の感慨もなく!

 まさに犬死に…どころか主人の鳳仙も巻き添えにして結局殺してしまうヒドさと、悪い意味でのテンポの良さに唖然とすること請け合いの怪シーンであります。

 おかげで、その後の色々が全て吹っ飛んだ感がありますが、何はともあれ盧俊義は晁蓋の後を継いで頭領に就任。あれ、宋江は…まあ、本作の宋江は結構武闘派だし、いいのかな。


 ちなみに今回、上で少し触れたように燕青が登場するのですが…原作での美男子ぶりはどこへやらの、単なるおっさんぶりに、きっと盧俊義もがっかりです。
 設定こそ、泰安州東嶽村の名主というのにニヤリとさせられますが…(泰安州東嶽廟は、原典での燕青の見せ場の一つ、奉納相撲の舞台なのです)


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水滸伝 DVD-BOX


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2009.12.03

「戦国無双3」ファーストインプレッション

 シリーズ久々のナンバリング作である「戦国無双3」が発売されました。
 「戦国無双」のキャラ自体は、無双シリーズキャラが集合した「無双OROCHI」シリーズで顔を出していたこともあり、ずっと見ていたような気もしますが、「2」以来数年ぶりの「戦国無双」であります。

 さて、無双シリーズ自体は最近はPSPで「無双OROCHI」シリーズをプレイしていたくらいの私が言ってもどれくらいの説得力があるかわかりませんが、本作をざっとプレイしてみた印象は、「いつもの無双」の一言。
 驚くような斬新な変化があるわけではないのですが、安心して無双キャラの大暴れを堪能できる…そんな印象です。

 むしろ印象に残ったのは、プレイ前、プレイ中のチュートリアルがかなり充実していて、プレイ中のミッション――どこに行けばいいか、誰と戦えばいいかが非常にわかりやすくなった点で、この辺りはシリーズを初めてプレイする方を考慮に入れているのだと思いますが、好感が持てます。

 (これは商売敵のソフトをこのブログで取り上げた時も書いたような気がしますが)個人的には、Wiiのヌンチャクコントローラーと3Dアクションゲームの異常な相性の良さが、本作でも遺憾なく発揮されていて、それだけでもWiiで発売した甲斐があった…と思います。

 さて、とりあえず「無双演武」(いわゆるストーリーモード)の、真田幸村全五話と、北条氏康と毛利元就各一話をプレイしてみましたが、「思っていた以上にマジメ…」という印象。
 もちろん――特にキャラ造形の部分で――それなりに無茶をやっている部分はあるのですが、それでも商売敵に比べると真面目すぎるくらいで、この辺りが良くも悪くも特徴なのかな…と思います。
(直江兼続の「伊達政宗の後ろ姿しか見ていない」や、鬼嫁に追い返された真田昌幸、毛利元就の三本の矢など、有名な戦国ネタのアレンジっぷりは実に面白いと思います)

 さて、個人的に一番気になっていた「村雨城」モードは、上級者向けのミッションモードと言ったところ。
 正直なことを言えば、本編の色違い…というところで、楽しみだった原作のBGMも、マップやイベント画面でアレンジが流れる程度(少なくとも序盤では)なのも残念です。

 しかし主人公・鷹丸のモデリングは、ファミコン版の面影がきちんと感じられますし、無双技や特殊技は、ファミコン版をプレイしていればニヤリとできるものばかり。
 何よりも、ストーリー的にはファミコン版の正当な続編(!)なのには感激しました(…あれ、そうすると任天堂製の続編は無いことになるのか)。


 さて、最後に時代ものファン的に感心した点が一つ。
 本作のパッケージには、幸村ともう一人、肩も露わな美女が描かれているのですが、どなたかと言えばこれが忍城の甲斐姫。

 作中にも忍城ステージがしっかり登場していますが、正直なところこれまで客観的に見てさほどメジャーでなかった甲斐姫が、いわば作品の顔にまでなってしまうとは、これはおそらくあの作品の影響だとは思いますが、今更ながら凄いことだなあと感じた次第です。

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2009.12.02

「いろは歌に暗号 まんだら探偵空海」 本当の犯人、本当の勝者

 弘仁元年に起きた「薬子の変」――藤原薬子が平城上皇を操り、嵯峨天皇に対して謀叛を起こしたこの事件の真相を探るよう、帝に命じられた空海。上皇が挙兵に踏み切った背後には、薬子が幻術で嵐山を消したことがあると知った空海は、その謎を解くべく推理を巡らせるが、そこには驚くべき秘密が隠されていた。

 「金閣寺に密室」に続き、陰陽師の六郎太と白拍子の静(「邪馬台国はどこですか?」の二人の先祖かしらやっぱり…)を狂言回しとした鯨統一郎の歴史推理シリーズの第二弾であります。
 前作は少年時代の一休宗純が主人公でしたが、本作で探偵役を務めるのは、唐から帰国したばかりの青年僧・空海。唐で天才ぶりを発揮しながらも、日本ではまだ野に埋もれた存在である空海が、親友の橘逸勢と共に、いわゆる「薬子の変」の謎を解き明かすことになります。

 薬子の変とは、平城上皇に寵愛された藤原薬子が、兄の仲成と共に上皇を唆し、平城京への遷都と上皇の重祚を図ったという事件。結局企ては失敗し、仲成は処刑され薬子は服毒自殺、上皇は出家して終息するのですが、その事件の背後に秘められた恐るべき意志の存在が、空海のいろは歌には隠されている、というのが本作の趣向です。

 物語構成としては、半ば辺りまでこの変の過程が描かれ、変が失敗して薬子が亡くなった後に、空海が探偵として乗り出すことになるのですが、さて、ここまで克明に薬子の動きが描かれたものに、何の真相が今更…と思ったのは、もちろん作者の術中に陥ったも同じであります。
 さすがに挙兵を渋る上皇を決断させた薬子の幻術――なんと嵐山を上皇の前から消し去ったという大トリックに挑むうちに、それまでの物語の中で描かれてきた些細な矛盾、ひっかかりが後々重大な意味を持ち、そこから導き出されるのは、変の真犯人とも言うべき者の存在…「常識」が幾度も覆されていくクライマックスの展開は、まさに歴史推理ものの醍醐味と言ってよいでしょう。


 しかしながら本作は、前作に比べると少々盛り込みすぎたかな、という気がいたします。
 あらかじめ「犯人」の行動を提示した上で(こういうのも倒叙というのかしらん)、そこから第二、第三の「犯人」を導き出すという凝った構成は楽しいのですが、そのために個々のトリックやキャラクターの印象が薄くなってしまった――そんな印象があるのです。
 特に主人公である空海と、ライバル探偵(!)である最澄の存在感が今ひとつに感じられるのは、何とも勿体なく感じられます。

 また、肝心の嵐山消失とそれに続く最大のトリックも、あまりに豪快に過ぎてバカミスすれすれ…というより一歩踏み越えてしまった感があります。


 が――それでもなお、私が本作を評価するのは、最後の最後、事件の真相が全て明かされたかに思われた時に明かされる最後の一撃が、実に美しく決まった点であります。
 事件の本当の被害者は誰だったのか、そして本当の勝者は…これまで紡がれてきたものが全て繋がった円環の果てに見えた一つの救いは、あまりにセンチメンタルかもしれませんが、冷徹な史実に人間の温かみを与えるというのも、歴史推理の一つの機能でしょう。

 本作の探偵コンビである空海と逸勢が活躍する短編連作「空海 七つの奇蹟」も先日刊行されましたが、そちらも読んでみようと考えているところです。

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いろは歌に暗号 (祥伝社文庫)


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2009.12.01

「乱飛乱外」第7巻 二人の関係クローズアップ!?

 何だかあっと言う間という印象ですが、「乱飛乱外」も第七巻目。この巻では、前半で聖女エズミ編が完結し、後半からは新章・伊賀編に突入します。

 堺の教会で暮らすド天然聖女・エズミの前に現れた異国の男たち。実はエズミはエスパニア王の庶子、彼女を母国に迎えるために迎えがやってきたのです。
 そこに、漁夫の利を狙う明智十兵衛光秀が絡んでまさに乱飛乱外の大混戦。果たして雷蔵はエズミを取るのか、人質となったかがりたちくノ一を取るのか…

 と、このエピソードに入ってから良いところのなかった雷蔵が、ここに来て自分で考えて立ち上がるのがこの章の見所でしょう。

 そして自分で考え、立ち上がったのはエズミも同じ。これまで神の下でひたすら教えに従っていた彼女が、自分が何者であるか、何を欲しているか知り、その上で自分が何をすべきかを選び取る――
 正直なところ、エズミのキャラクターと、この章での雷蔵のダメ人間ぶりには呆れていたのですが、それは全て、終盤のこの展開のためであったかと、今頃気づいた自分の目の節穴ぶりには恥入る次第です。

 とはいえ、本作の大きな魅力である、くノ一たちが完全に脇役に――どころか足手まといに――なっているのは相変わらずで、それが何とも残念、というより気に入らぬ、と思っていたら、新章はくノ一たちが大挙登場の伊賀編。

 次期頭領を決めるため、様々な術の遣い手と対決する百活修法の儀に挑む伊賀の里の姫君・おろち(これが妹系ドSという難儀なキャラ)に、雷蔵は振り回されることになります。

 この百活修法の儀の中に含まれるのは、雷蔵一の臣であるかがりの得意とする神体合――恋する相手から見つめられることにより、鬼神の如き身体能力を発揮する術。
 その神体合でおろちとかがりが戦うということは、すなわち、おろちもまた、雷蔵を恋することを意味するのですが…
 というわけで、この伊賀編では、久々に雷蔵とかがりの関係がクローズアップされることになりそうです。

 本作の見所の一つは、神体合で雷蔵を助けながらも、その努力が実る時は、同時に彼女の恋が破れる時というかがりの抱えたジレンマ。
 最近の展開ではあまり踏み込んで描けていなかったと感じられるその点が、今回のエピソードでははっきりと描かれるのでしょう。

 折しも明かされる神体合の致命的な弱点――果たして雷蔵とかがりの絆はそれを乗り越えることができるのか、何だかんだ言ってもやはり先を楽しみにしているところです。


 …しかし、念者念者と連発されるのは、その、何というか微妙な気分になります。

「乱飛乱外」第7巻(田中ほさな 講談社シリウスKC) Amazon
乱飛乱外 7 (シリウスコミックス)


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