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2009.12.24

「おらんだ左近」 連作短編に見る一流の技

 夜盗の素走り佐平次が出会った馬車を乗り回す不思議な浪人。長崎でオランダ医術を修めたことから姓を「おらんだ」、生まれた日に桜が満開だったことから名を「左近」と名乗るこの浪人の正体は、江戸を出奔した尾張大納言斉朝の実子だった。身分を捨て、市井で貧しい人々に医術を施す左近は、次々と起こる怪事件に颯爽と立ち向かう。

 名作再紹介シリーズ、今回は柴田錬三郎描く颯爽たるヒーローが活躍する連作集「おらんだ左近」です。
 柴錬先生の時代小説には(純然たる短編を除き)、骨太の伝奇ロマンを描く長編の系譜と、孤独なヒーローが活躍する連作短編の系譜がある――と勝手に分類していますが、本作はその後者に属する作品。
 おらんだ左近、と柴錬ヒーロー史上でも一二を争う人を食ったネーミングのヒーロー(これに並ぶのは「きらら主水」くらいか?)が、オランダ医術と無敵の剣を武器に、様々な事件に立ち向かうという趣向の作品であります。

 収録されているのは全六作品――
 宮本武蔵を名乗る怪人との対決から、皮肉な真相が浮かび上がる左近の登場篇「海賊土産」
 曰くありげな仇討ちに巻き込まれた左近が、その背後の意外な秘密を知る「仇討異変」
 何者かに殺害された飛脚の末期の願いを聞いた左近が隠密を向こうに回す「江戸飛脚」
 記憶を失い一夜にして白髪と化した男を通して欲にまみれた人の怨念が描かれる「白髪鬼」
 宗門目付の相次ぐ暗殺事件の解明を大目付から依頼された左近が活躍する「暗殺目付」
 商家の女主人が、無関係の夜鷹に莫大な遺産を残した謎を解く「血汐遺書」

 いずれも、伝奇ものの興趣横溢、短編という制約の中で縦横無尽に奇想を巡らせた快作揃いであります。

 例えば、再読してつくづく感心させられたのが「海賊土産」。
 江戸時代に馬車で道を往くという人を食った左近の登場シーンから、こともあろうに宮本武蔵を名乗る怪人の登場、さらにその意外な「正体」で度肝を抜いておいて、そのまま一気に皮肉で残酷な結末まで持っていくという、まさに一読巻置く能わずと言うべき作品構成には、今更ながら驚かされます。

 さすがに短編ということもあって分量的な制約は感じられるのですが、それを逆手に取ったかのような物語運びのテンポの良さと、結末の切れ味の良さは、これは柴錬先生一流の技というべきでしょう。
 柴錬先生としては後期にあたる時期の作品ですが、この辺りの呼吸は、昔から変わらず――いや、より研ぎ澄まされた感があります。

 柴錬ヒーローの中では比較的明るめな左近の個性もあり、案外サラッと読めてしまうのが善し悪しな面もありますが、ウェルメイドな作風は、私は嫌いではありません。

「おらんだ左近」(柴田錬三郎 集英社文庫) Amazon
おらんだ左近 (集英社文庫)

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