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2009.12.02

「いろは歌に暗号 まんだら探偵空海」 本当の犯人、本当の勝者

 弘仁元年に起きた「薬子の変」――藤原薬子が平城上皇を操り、嵯峨天皇に対して謀叛を起こしたこの事件の真相を探るよう、帝に命じられた空海。上皇が挙兵に踏み切った背後には、薬子が幻術で嵐山を消したことがあると知った空海は、その謎を解くべく推理を巡らせるが、そこには驚くべき秘密が隠されていた。

 「金閣寺に密室」に続き、陰陽師の六郎太と白拍子の静(「邪馬台国はどこですか?」の二人の先祖かしらやっぱり…)を狂言回しとした鯨統一郎の歴史推理シリーズの第二弾であります。
 前作は少年時代の一休宗純が主人公でしたが、本作で探偵役を務めるのは、唐から帰国したばかりの青年僧・空海。唐で天才ぶりを発揮しながらも、日本ではまだ野に埋もれた存在である空海が、親友の橘逸勢と共に、いわゆる「薬子の変」の謎を解き明かすことになります。

 薬子の変とは、平城上皇に寵愛された藤原薬子が、兄の仲成と共に上皇を唆し、平城京への遷都と上皇の重祚を図ったという事件。結局企ては失敗し、仲成は処刑され薬子は服毒自殺、上皇は出家して終息するのですが、その事件の背後に秘められた恐るべき意志の存在が、空海のいろは歌には隠されている、というのが本作の趣向です。

 物語構成としては、半ば辺りまでこの変の過程が描かれ、変が失敗して薬子が亡くなった後に、空海が探偵として乗り出すことになるのですが、さて、ここまで克明に薬子の動きが描かれたものに、何の真相が今更…と思ったのは、もちろん作者の術中に陥ったも同じであります。
 さすがに挙兵を渋る上皇を決断させた薬子の幻術――なんと嵐山を上皇の前から消し去ったという大トリックに挑むうちに、それまでの物語の中で描かれてきた些細な矛盾、ひっかかりが後々重大な意味を持ち、そこから導き出されるのは、変の真犯人とも言うべき者の存在…「常識」が幾度も覆されていくクライマックスの展開は、まさに歴史推理ものの醍醐味と言ってよいでしょう。


 しかしながら本作は、前作に比べると少々盛り込みすぎたかな、という気がいたします。
 あらかじめ「犯人」の行動を提示した上で(こういうのも倒叙というのかしらん)、そこから第二、第三の「犯人」を導き出すという凝った構成は楽しいのですが、そのために個々のトリックやキャラクターの印象が薄くなってしまった――そんな印象があるのです。
 特に主人公である空海と、ライバル探偵(!)である最澄の存在感が今ひとつに感じられるのは、何とも勿体なく感じられます。

 また、肝心の嵐山消失とそれに続く最大のトリックも、あまりに豪快に過ぎてバカミスすれすれ…というより一歩踏み越えてしまった感があります。


 が――それでもなお、私が本作を評価するのは、最後の最後、事件の真相が全て明かされたかに思われた時に明かされる最後の一撃が、実に美しく決まった点であります。
 事件の本当の被害者は誰だったのか、そして本当の勝者は…これまで紡がれてきたものが全て繋がった円環の果てに見えた一つの救いは、あまりにセンチメンタルかもしれませんが、冷徹な史実に人間の温かみを与えるというのも、歴史推理の一つの機能でしょう。

 本作の探偵コンビである空海と逸勢が活躍する短編連作「空海 七つの奇蹟」も先日刊行されましたが、そちらも読んでみようと考えているところです。

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