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2009.12.20

「空海七つの奇蹟」 迷える人々を救うトリック

 修行の旅で讃岐国を訪れた若き官人・橘逸勢は、そこで襤褸布を纏った傲岸不遜な修行僧・真魚と出会う。最初は真魚に反発する逸勢は、信じられない奇蹟を起こす真魚に興味を持ち、やがて共に旅をするようになる。虚空蔵求聞持法を求めて旅する真魚――後の空海が起こした七つの奇蹟の物語。

 「いろは歌に暗号」で探偵役を務めた空海と、その相棒・逸勢を主人公に据えた全七話の連作短編集であります。

 長編歴史推理から連作短編にスピンオフというのは、「いろは歌に暗号」の前作に当たる「金閣寺に密室」と、そこからスピンオフした「謎解き道中」の関係と同じですが、単なるミステリに終わっていないのが本作の趣向です。

 空海が諸国を放浪して様々な奇蹟を起こしたというのはよく知られる伝説であり、その中でも弘法水――空海が杖を突いたところから水が湧きだして人々に潤いを与える――は特に有名ですが、本作で描かれるのはその空海の奇蹟。弘法水の奇蹟を第一話に、彼方から物体を引き寄せ、死者を甦らせ…と奇蹟の数々が描かれます。

 もちろん、本作はあくまでもミステリ。それぞれの奇蹟については、実は合理的な種も仕掛けもあるもの。つまり空海は事件を解き明かすのではなく、トリックを仕掛ける役を務めることとなります。

 普通、仕掛けのある奇蹟、それも宗教絡みとくれば、何やらキナ臭いものが感じられますが、本作で空海が行う奇蹟は、いずれも迷える人々を救い、往く道を指し示すが如きもの。
 「嘘も方便」を地でいくような展開がなかなか面白く、そして仏教者である空海が主役を務める必然性が、ここに感じられます。

 やはり短編集だけあって、ストーリーや仕掛けもそれほど凝ったものではないのですが、このミステリとは変化球的な味付けもあって、なかなか面白く読むことが出来ました。

 ちなみに本書の最終話で空海と(間接的に)対決することになるのは、藤原薬子とその兄・仲成。
 薬子は「いろは歌に暗号」で本格的に空海と逸勢が絡むことになる相手ですが、いわばこの最終話は、そちらのプロローグ的な扱いとなっているわけで、ニヤリとできる趣向であります。

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