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2009.12.25

「外道忍法帖」 矛盾と愛に満ちた結末の言葉

 天正使節団がローマ法王より下賜された百万エクーの金貨。その在処が、十五人の切支丹の処女の胎内に隠された鈴に記されていることを知った松平伊豆守は、天草扇千代率いる伊賀忍法を修めた天草一族に探索を命じる。一方、その情報を知った由比正雪も、財宝奪取のため配下の甲賀忍者を放つ。十五対十五対十五の三つ巴の忍法合戦のゆくえは…

 名作再紹介シリーズ。山田風太郎先生の忍法帖の中でも、独自の位置を占める長編であります。

 独自の位置というのはほかでもない、忍法帖シリーズ数ある中で本作は忍者の登場数でトップを誇る作品(逆無双状態の「海鳴り忍法帖」は例外として)。
 物語としては、天正少年使節が持ち帰った巨額の財宝を巡り、その在処を記した十五の鈴を巡る争奪戦というのが基本ラインですが、その鈴をそれぞれ胎内に隠すのが大友忍法を体得した隠れ切支丹の十五童貞女であり、それを奪わんとするのが、天草家再興に燃える十五人の伊賀忍者と、由比正雪配下の十五人の甲賀忍者――すなわち、大友忍者十五人vs伊賀忍者十五人vs甲賀忍者十五人、実に四十五人もの忍者が、三つ巴のトーナメントバトルを展開することとなります。

 さらに十五童貞女の上に立つ謎の女性・マリア天姫の存在も絡み、忍法合戦+秘宝争奪+謎解きという、およそエンターテイメントとしては極上の材料が揃った本作なのですが――しかし、どうにも個々の忍者のキャラクター、そしてバトルの書き込みが薄い、というのが正直なところ…

 分量としては忍法帖としては平均的なレベルでありながら、その中で際だって多い人数の忍者を、それも3ウェイで戦わせるというのは、これはさすがの山風先生であっても、やはり無理があったというべきでしょうか。何しろ、最大のお楽しみである個々の忍者の忍法すら、出せず仕舞いで終わる者が一人や二人ではない状況ですから…
(どうしてこうなったかには色々と見方があるかもしれませんが、これだけの人数がいながらトーナメントバトルが開催されるのが全体の三分の一過ぎであることやバトル初戦の展開を見ていると、純粋に構成ミスのような気がします)


 と、忍法帖としては瑕疵が多い本作をあえて名作として取り上げるのは、あまりに皮肉で、美しい最後の戦いの結末を、私がこよなく好むためであります。

 本作において主役とも狂言回しとも言える立ち位置を占める天草扇千代が、ついに知ったマリア天姫の正体。その罠に嵌り、最後の勝利が天姫にもたらされようとした時に、扇千代が選んだ道――そして何よりも、その時に彼が呟く最期の言葉、その矛盾と愛に満ちた言葉に秘められた彼の想いが、こちらの胸を打つのです。
 山風作品には結末の台詞が印象的な作品が実は多いのですが、その中でもこれは屈指の台詞の一つと、私は信じている次第。

 そして彼にそれを言わしめたヒロインもまた、ある意味山風ヒロインの極とも言うべき存在でしょう(三田誠広先生絶賛)。ここでやはり分量不足によるインパクトのなさが悔やまれる、というのは置いておくとして…


 偏った感想ではありますが、「人数多すぎ」という文脈のみで語られることの多い本作が、決して単なる失敗作ではないと感じていただければ、と思います。

 まあ、ラスト一行は別の意味でこちらの胸を打つのですが…

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外道忍法帖―忍法帖シリーズ〈2〉 (河出文庫)

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