「退屈姫君 海を渡る」 風流・退屈、夢の競演
今日も江戸で退屈を持て余していためだか姫の元に、国元に帰っていた夫・時羽直重が失踪したとという知らせが舞い込む。勇躍、仲間たちとともに風見藩に渡った姫を待っていたのは、直重なき藩を牛耳る謎の武士・六波羅景望だった。お家乗っ取りの危機に、姫の活躍は?
新年最初の更新は、お正月らしく賑やかで楽しい作品を…というわけで、「退屈姫君」シリーズの第二弾、「退屈姫君 海を渡る」であります。
もともとは「風流冷飯伝」と「面影小町伝」の間に挟まる、三部作の第二部だった「退屈姫君伝」ですが、あまりに人気があったということなのかスピンオフ(?)して単独のシリーズとなった、そのシリーズ化最初の作品が本作です。
お話的には、「退屈姫君伝」の直後に当たる本作、夫で風見藩主の直重失踪の報に、「入り鉄砲に出女」もあるものかは、めだか姫は、くノ一お仙、守役の諏訪に将棋指南役の天童小文五という前作でもお馴染みのメンバーと海を渡って風見藩に赴くのですが…
風見藩と言えば、そう「風流冷飯伝」の舞台であり、そこで待っているのは、飛旗数馬たち愛すべき冷飯食らいに、お仙の兄の幇間・一八という懐かしのメンバー。
いわば「風流」「退屈」のオールスターキャスト、これだけで嬉しくなるではありませんか。
ストーリー的には、お家騒動ものの一つといったところで、御国御前(側室)が藩主の子を孕んだのをいいことに、風見藩乗っ取りを企むその兄と、めだか姫は対決することになります。
この悪役・六波羅景望は、城の腰元たちが黄色い声を上げるほどの色男である上に、奇怪な瞳術で人の意志を自在に操る怪人。
既に藩の大半を掌握したこの怪人の前に、頼みの綱の冷飯や一八は、手も足も出ずに敗れ…って、これは頼むのが間違いですが、とにかく今回も、強力な敵を向こうに回し、イレギュラーな連中が奇策縦横立ち向かう様が、実に楽しく痛快に描かれていきます。
そのイレギュラーの筆頭、めだか姫ですが、しかし、やはり主人公! と唸らされたのは、日和った国家老に対しての言葉。
たとえ六波羅に直重公を亡き者とされ、国を乗っ取られたとしても、時羽の家さえ残れば…と言う家老に対し、私が嫁に来たのは時羽家ではない、家ではなく夫を守るために戦います! と凛然と宣言する姿は、実に痛快でありました。
もちろん、うるさ型からすれば、この時代にこんなことを言う女がいるかい、ということになるんでしょうが、それは野暮というもの。
そして、クライマックスでめだか姫たちが仕掛けた乾坤一擲の大逆転の痛快な一手――その背後にある、果たして「国」とは何なのかという問いかけと、実はこの啖呵が表裏一体となっていることを考えれば、なるほど! と感心せざるを得ないのです。
さて、一つの事件を解決してめでたしめでたし、となっても油断のならない本シリーズ。
めだか姫の退屈も、いつまで続きますことやら…と、以下は次の巻のお楽しみであります。
「退屈姫君 海を渡る」(米村圭伍 新潮文庫) Amazon

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