« 「新撰組 PEACE MAKER」 第01話「不穏」 | トップページ | 「徳利長屋の怪 名探偵夢水清志郎事件ノート外伝」 時代に挑む大仕掛け »

2010.01.27

「ギヤマン壺の謎 名探偵夢水清志郎事件ノート外伝」 名探偵幕末にあらわる

 時は幕末、長崎の出島の蔵から、高価なギヤマンの壺が消えた。密室事件の謎を解いたのは、黒眼鏡に黒ずくめの着物の自称「名探偵」夢水清志郎左右衛門だった。ぶらりと旅に出た清志郎左右衛門は、江戸で三つ子の姉妹が大家の長屋に住みついて探偵稼業を始めるが…

 児童向けとして執筆されながらも、大人の間にも多くのファンを持つ「名探偵夢水清志郎事件ノート」シリーズの外伝である大江戸編の上巻が、本作「ギヤマン壺の謎」であります。
 現代などを舞台としたある物語の番外編として時代劇編が描かれるのは、特に漫画などでは珍しくないこと。まさにコスチューム・プレイというわけで、非日常たる時代劇の世界で物語が展開されるというのは、それだけ刺激的ということなのでしょう。

 しかし本作と下巻「徳利長屋の怪」においては、単に舞台を変えた目新しさだけでなく、時代ものとして描かれることにもある種の自覚をもって描かれていると感じられます。

 本作の舞台となるのは幕末。新しい時代は目前とした混乱の中にあって、しかし古い時代の体制・社会秩序も厳然として存在していた時代であります。
 人情があったとか、志があったとか、しばしば現代に比して理想的に取り上げられるこの時代――もちろんそれはこの時代に限ったことではありませんが――ではありますが、しかし、身分差別をはじめとして、現代の我々では想像もつかないような不自由・不幸があったことは、言うまでもないことであります。

 これはむしろ下巻で一層はっきりと描かれる点ではありますが、清志郎左右衛門が挑む事件の背後にあるのは、この一種時代性とも言えるもの。
 人が幸せになれない、人を幸せにしない時代に対して、「事件を、みんなが幸せになるように解決する」名探偵・清志郎左右衛門が挑む――本作は、そんな構図の下に成り立つ作品であります。


 時代によって変わらないもの、変わるもの、変わらなければいけないもの、変わってはいけないもの――舞台を江戸時代とすることにより、その点を(元シリーズと無意識に比較させることで)浮かび上がらせてみせた本作。
 考証の点で突っ込みどころは山ほどありますが、しかしそれでもなお、本作の視点はしっかりと時代小説なのであります。

 さて、下巻では清志郎左右衛門と仲間たちが、皆を幸せにするために驚天動地の大徳利…いやトリックを仕掛けるのですが、それはまた稿を改めて。

「ギヤマン壺の謎 名探偵夢水清志郎事件ノート外伝」(はやみねかおる 講談社文庫) Amazon
ギヤマン壺の謎<名探偵夢水清志郎事件ノート外伝> (講談社文庫)

|

« 「新撰組 PEACE MAKER」 第01話「不穏」 | トップページ | 「徳利長屋の怪 名探偵夢水清志郎事件ノート外伝」 時代に挑む大仕掛け »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/47399890

この記事へのトラックバック一覧です: 「ギヤマン壺の謎 名探偵夢水清志郎事件ノート外伝」 名探偵幕末にあらわる:

« 「新撰組 PEACE MAKER」 第01話「不穏」 | トップページ | 「徳利長屋の怪 名探偵夢水清志郎事件ノート外伝」 時代に挑む大仕掛け »