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2010.01.28

「徳利長屋の怪 名探偵夢水清志郎事件ノート外伝」 時代に挑む大仕掛け

 今日も徳利長屋で暢気に暮らす清志郎左右衛門。しかし時代の流れは、彼らの周囲にも押し寄せていた。かつて旅を共にした友の死に、これ以上時代の犠牲を出さないことを誓った清志郎左右衛門は、江戸を戦火から救うため、仲間たちとともに「江戸城を消す」仕掛けに挑む。

 「名探偵夢水清志郎事件ノート」外伝・大江戸編の下巻、「徳利長屋の怪」であります。
 上巻では鮮やかな活躍(?)を見せてくれつつも、さほど幕末という時代には絡んでこなかった清志郎左右衛門ですが、この下巻では仲間たちと共に、真っ向から時代の流れに挑むことになります。

 一大変革の時代であったとはいえ、あまりに多くの血が流れた幕末。侍同士の、主義主張のための争いのみならず、単にそこにいたというだけで庶民も巻き込まれ、犠牲となっていった時代…というのは一面的な見方かもしれませんが、しかし、時代を超えるための不幸がそこにあったことは間違いありません。

 そんな世相を、自らを名探偵――事件を、みんなが幸せになるように解決する職業と以て任ずる清志郎左右衛門は見過ごしにすることはできません。
 江戸に出てくる途中、暢気に楽しい旅を繰り広げた友・才谷梅太郎――その正体をここで述べるまでもないでしょう――の死の知らせに、清志郎左右衛門が涙を流すという本作随一に印象的な場面を経て、彼はついに自ら時代の流れを変えるべく、立ち上がることになります。

 時あたかも、新政府軍が江戸目指して進軍中。対する幕府軍は、江戸を戦場としても徹底抗戦の構え。江戸が炎に包まれ、多くの無辜の民が犠牲となりかねぬ事態を前に、清志郎左右衛門たちの選んだ手段――それが、徳川幕府の象徴であり、新政府軍最大の標的である江戸城の消失というのは、ある意味実に本作らしい、実に人を食った仕掛けですが、しかし、そこに込められているのは、時代とは、歴史とは何なのか、誰のためのものかという真摯な問いかけであります。

 確かに、トリック的には時代を考えても豪快に過ぎるかもしれませんし、その下敷きとなる清志郎左右衛門の主張及び民衆の声も、いささかお説教じみて聞こえるかもしれません。
 しかし私は、ミステリを手段として、ある時代に対する視点を提供してみせる本作のスタンスを大いに評価したいと思います。これを時代ミステリと呼ばず、何と呼ぶべきでしょうか?


 などと大上段に振りかぶったお話をしましたが、本作の基本は、あくまでも楽しいエンターテイメント。
 清志郎左右衛門をはじめとする長屋の面々の明るいキャラクターの楽しさはもちろんのこと、長屋の隣人にして幻の秘剣・天真流の使い手である巧之介と江戸城を守る御庭番の対決など、アクションの見せ場もきっちり用意しているのは心憎いところです。

 シリーズファンのみならず、本作で初めてシリーズに触れるという方にもおすすめしたい、児童文学と甘く見ていると大損をする快作であります。

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徳利長屋の怪<名探偵夢水清志郎事件ノート外伝> (講談社文庫)


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