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2010.01.15

「よわむし同心信長 消えた天下人」 長次郎、信長を救う!?

 今日も小者の藤吉郎、そして頭の中の信長と事件解決に勤しむ南町奉行所同心・信藤長次郎。そんな彼(ら)が、隠れ切支丹絡みの事件に巻き込まれた。切支丹たちの指導者である伴天連・向井ジョアンが江戸に潜伏しているとの報を受け、探索に勤しむ長次郎だが、頭の中の信長が姿を消してしまい…

 文庫書き下ろし時代小説の主流と思われる奉行所もの、その中でも設定の奇抜さでは間違いなくトップクラスと思われる「よわむし同心信長」シリーズ、待望の第三巻であります。
 気弱な信長マニアの町方同心の頭の中に、信長の精神が宿るという途方もない設定で度肝を抜いてくれた本シリーズですが、今回、「よわむし信長」こと信藤長次郎が挑むことになるのは、隠れ切支丹にまつわる事件。

 信長公とキリスト教は、言うまでもなく縁の深いもの。それを背景として、長次郎と信長にキリスト教絡みの事件を扱わせるというのは、なかなかうまいアイディアと言えるでしょう。

 そして今回の趣向はそれだけではありません。副題にあるように、常に長次郎の頭の中にいて彼を叱咤激励してきた信長の声が、ぱったりと聞こえなくなってしまうのであります。
 しかもそれが、長次郎たち自身が下手人として疑われた事件の真っ最中という最悪のタイミング。頼もしい後ろ盾なしに、長次郎がいかに苦境を切り抜けるか…これは大いに気になるところです。

 さらにさらに、最終エピソードでは、何と信長の危機を救うため、長次郎が奔走するという意外な展開。本能寺の変の真実を記したという書物に描かれた、信長の正体とは…と、時代ものの中に歴史ミステリという入れ子構造的な展開で、長次郎が信長の濡れ衣を晴らすため活躍するというのは、なるほど、こういう展開もアリか! と唸らされました。


 が…アイディアは良いのですが、それを活かす物語の展開、ミステリとしての仕掛けは正直なところ今ひとつ――
 個々の事件のトリックがかなり初歩的もしくは杜撰なものであって、長次郎が、信長が難事件に立ち向かうというコンセプトを十全に活かしていると言い難いのが何よりも勿体ない。

 最終エピソードにおいても、信長の濡れ衣を晴らすための手段があまりにも真っ当過ぎる…というよりそんなことも考えていなかったのか! 的なものなのが何とも。
(そもそも、架空の書物に記された信長の「真実」を否定するのが、信長本人の証言というのは反則スレスレというか完全にアウトというか…)


 結果的に大変厳しい評価になってしまいましたが、それだけ私が本シリーズに期待し、楽しみにしていることの裏返しと思っていただければ。
 他に類のない大変ユニークな設定の物語だけに、そこに小説本来の面白さが加わればまさしく鬼に金棒と思うのですが…

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