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2010.02.24

「アイゼンファウスト 天保忍者伝」第4巻 くやしい…でも な快作

 山田風太郎先生の「忍者黒白草紙」を原作にしつつも大胆に漫画化した問題作「アイゼンファウスト」の第四巻が発売されました。
 この巻で描かれるのは、先の江戸南町奉行・矢部駿河守一家を巡るエピソード。引退してもなお人望を集める駿河守を破滅させんとする鳥居耀蔵の意を受けて、DT忍者・箒天四郎は矢部駿河守と息子・彦四郎、そしてその妻・貞代を付け狙うことになるのですが…

 が、彼らを陥れんとする天四郎の目から見ても、あまりにも強い絆を持った矢部家には落ち度の一つもなし。落ち度がなければ作ればいいじゃない、と陰湿な工作に走る天四郎ですが、しかし、ここでまあ大方の読者の予想通り、色々とナニでアレな展開になるわけです。

 個人的にはこの手のシーンは好きではないのでこれまではあまり触れてきませんでしたが、そんな私の目から見ても原作にも登場した打ち首人形を絡めたアレなシーンの展開のバカバカしい面白さは相当のもの。
 山風先生に謝れと言うべきか鳥居様に謝れと言うべきか…本人たちが大真面目(?)だからこそかえっておかしいというコメディの基本に則った迷シーンであります…アレだけど。
(ちなみにこの打ち首人形、このシーン以外も含めて、原作よりもうまい使い方をしていたように感じます…と言ったら怒られるかしら)

 と、それでも諦めない天四郎の執拗な策略により、ついに訪れるカタストロフ。
 強い絆も、天四郎のとった残酷かつ忌まわしい手段でもって断たれ、脆くも崩壊していく矢部家ですが…実は、ここから先の展開こそが――特に原作との対比において――この巻の真骨頂とも言うべき内容となっているのです。

 少々ネタバレになってしまうのですが、矢部家の面々の辿る結末は、表面上は原作と同じであっても、その根底にあるものはむしろ正反対のもの。
 どれだけ無惨な運命に見舞われようとも、決して壊れない絆を残すことにより、彼らは勝ったのだと、そう言い切ることができる結末には、くやしいことにグッとくるものがありました。

 そしてもう一つ――天四郎との会話の中で矢部駿河守が語る言葉は、本作のテーマとも言える、正義とは何か、悪とは何か? に対する一つの明確な答え。
 原作でも描けなかったその答えを、ここではっきりと示してみせる作者のセンスには、思わず唸らされます。


 本当に毎回毎回、本当にどうしようもないエロ展開ばかりのバカ漫画なのですが、しかし時としてこのように原作の描かんとしていたものを、より鮮烈に、深化させた形で描いてみせる本作。
 くやしい…でも(ry と言わざるを得ない、くやビク漫画の怪作…いや快作であります。

 残念ながら、掲載サイトの終了で本作はこの第四巻で一旦完結、という形になりましたが、しかし媒体を変えて本作の続きが描かれていくとのこと。本当にくやしいのですが、これからも、このくやビク漫画とはつき合っていかなくてはいけないようです。

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