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2010.02.26

「首狂言天守投合」 室町伝奇+コメディ=?

 毎度お馴染み「異形コレクション」の朝松室町伝奇、最新巻の「喜劇綺劇」に掲載されたのは、「首狂言天守投合」であります。
 「喜劇綺劇」は、そのタイトルから察せられる通り、ホラーでありつつも、「笑い」をテーマとしたアンソロジー。その中に描かれた本作は、室町伝奇+スラップスティックコメディといった趣の怪作であります。

 そもそも、一見相反するものと思われる「笑い」と「恐怖」の関係については――これは編者によるアンソロジーの序文をご覧いただくとして、異形コレクションでの朝松先生の作品しかご存じない方には、氏がコミカルな作品を書くというのは、少々意外かもしれません。

 が、昔からの朝松ファンであれば、「笑い」が氏の作品を飾る重要な色彩の一つであることを、よくご存じのはず。
 100を数える朝松先生の単行本のうち、実に一割以上が、スラップスティックコメディに分類される作品なのですから――(コミカルな味付けの作品も含めれば、その数はさらに倍にもなるでしょう)

 さて、そんな作者が今回題材に選んだのは、「首化粧」という風習。
 戦国時代、合戦で討ち取った首を首実検に供する前に、洗い清め、見栄えよく化粧するという、雅やかなのか忌まわしいのかよくわからないこの風習、実際に担当したのは女性たちとのことです。

 本作で描かれるのは、とある城の天守を舞台に、首化粧をする三人の姫君の姿。
 薄暗い天守も、腐敗を始めた生首もものともせず、いかにも年頃の少女らしく賑やかに、楽しげに首化粧に勤しむ彼女たちですが、お互いの悪ふざけがエスカレートして…という趣向なのです。

 ちょっとした摩擦や衝突がエスカレートして大暴走、というのは、これはコメディの常道の一つですが、朝松作品でもそれは健在。
 その代表格は、正月のカルタ取りが異種格闘技戦となったりが日常茶飯事だった「私闘学園」シリーズ(そういえば本作の三人の姫は、一条家の三姉妹を彷彿とさせる…などと書けばあとで恐ろしいことになりそうですが)ですが、本作は、まさにその辺りの呼吸を感じさせます。

 が、作者のコメディは大分久しぶりだったということもあってか(あるいは本作執筆の直後に体調を崩して入院ということもあってか)、本作のテンション、ギャグの切れは、正直なところ今ひとつの印象…
 作者にとっても本作は不本意な出来だったようですが、いずれにせよ、「笑い」も「恐怖」も思い切りが必要なのだなあと、残念ながら確認させられた次第でした。


 しかしながら、段々と登場人物と物語が歪んでいき、ついには世界そのものが崩壊していくという、いかにも朝松ホラーらしい展開とスラップスティックの組合せというのが、存外似合っているということがわかったのは本作の収穫でしょう。

 そして何より、ラストに至り、「天守」を舞台とする意味が明らかになるという構成も、室町伝奇として実に気が利いています。

 できれば、今後も室町伝奇+コメディの試みは、続けていっていただきたいと…そう感じたのも、紛れもない事実であります。

「首狂言天守投合」(朝松健 光文社文庫「異形コレクション 喜劇綺劇」) Amazon
喜劇綺劇―異形コレクション (光文社文庫)

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