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2010.02.16

「ひとつ灯せ 大江戸怪奇譚」 怪異の中に生を知る

 隠居してから死への恐怖に怯え、床についてしまった料理屋の主・清兵衛。親友の甚助によって取り憑いていたモノが祓われ回復した清兵衛は、甚助の誘いで怪談を語り合う「話の会」に参加する。そこで知り合った人々と楽しい時間を過ごす清兵衛だが、怪異は少しずつ彼らの周囲を歪ませ始める…

 宇江佐真理先生の「ひとつ灯せ 大江戸怪奇譚」が文庫化されました。
 副題の通り、江戸を舞台とした時代ホラーではありますが、単に怖がらせるばかりではなく人の生について考えさせられる、いかにも作者らしい作品であります。

 物語の中心となるのは「話の会」なる怪談会。
 構成メンバーは隠居商人、三味線の師匠、町医者、私塾教師、奉行所同心――一種江戸の有閑階級に近い人々が、自分が伝聞した「本当にあった怖い話」を物語る会合であります。

 こうした怪談会を舞台としたオムニバス形式の怪談集というのは、(本書の解説でも当然触れられているように)岡本綺堂の「青蛙堂鬼談」、野村胡堂の「奇談クラブ」などでお馴染みの形式ですが、しかし、本作がそれらと大きく異なるのは、物語が進むにつれ、会に参加する人々と、彼らを取り巻く状況が奇怪に変化し、そしてある結末を迎えることでしょう。

 本作の第一話では、主人公の清兵衛が、「話の会」に参加するいきさつが描かれます。
 がむしゃらに働いて息子に店を譲り、余裕が出た途端に死の恐怖に取り憑かれた清兵衛。そんな彼に対し、親友の甚助は、恐怖に打ち勝つためにはもっと怖い話を聞けばよい、と会への参加を誘うのです。
 その後のエピソードで描かれるように、会に参加した清兵衛は、それまでとは全く異なる人間関係の中で第二の生を満喫するのですが――しかし恐怖を友にし、怪異を楽しむはずの会が、あたかもそれ自体恐怖を招くかのように、徐々に現実が変質していくことになります。

 初めはささいなメンバー間の行き違いであったものが、やがて呪詛に変じ悲劇を招く。メンバー自身が怪異に悩まされ、異界に巻き込まれる。そしてついには――
 あくまでも彼岸のものとして楽しんでいたモノが、気がつけば此岸に、自分の傍らにあった…怪異に関する遠近法が歪んだかのような恐ろしさが、そこにはあります。

 そして、最終話で描かれる、ついに彼岸と此岸が重なり合ったかのような世界の恐ろしさたるや…いや、ただ脱帽するほかありません。


 が、ただ怖かった、で終わらないのが宇江佐作品と言うべきでしょうか。

 最後に清兵衛が恐怖の果てに達する境地――それは、不思議な静謐に満ちた世界。
 あれほど死を恐れていた清兵衛が、すぐ隣にその存在を感じるようになったにもかかわらず、そのような心境に達したその理由は、皮肉なことではありますが、恐怖の淵源とも言える彼岸と、彼の生きる此岸の合一にあるのでしょう。

 この世のものならぬ怪異を知ることは、つまりは死を、死の先にあるものを知ること。
 そして、死を知るということは、その裏側にある生を知るということ――

 実はこれは、考えてみれば清兵衛が会に参加したそもそもの理由。本作は、それを清兵衛が真に理解するまでの物語と言えるのかもしれません。

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ひとつ灯せ―大江戸怪奇譚 (文春文庫)

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