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2010.03.23

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」 第11話「なぜ? 機巧嫌いの男」

 山寺に泊まることになったヒヲウ。だが、寺の僧・無元は、機巧を異常に嫌悪していた。実は無元は井伊直弼の供回りであり、桜田門外の変で一人逃げた過去があったのだ。風陣のクロザルは無元を脅し、ヒヲウ襲撃の手引きをさせる。しかし、襲いかかるクロザルの猿機巧に苦戦する一行の窮地を救ったのは、再び刀を取った無元だった。炎で機巧を一蹴し、戻ったヒヲウが見たのは、満足げに逝く無元の姿だった。

 今回も本筋には直接関係しないエピソード…が、メインライターの會川昇氏が担当して凡百の内容になるわけがない、と思っていたらこれがまた想像を上回るクオリティの内容。白状すれば本作で初めて泣かされました。

 今回のアバンタイトルは、再び桜田門外の変。以前のエピソードで、風陣の(そしてあの人物の)機巧によって実は井伊直弼が討たれたことが描かれましたが、今回はそれと角度を変えて、警護の侍たちから見た変の現実が描かれます。
 そしてその乱戦に背を向けて逃げ出してしまった男・無元が、今回の物語の中心であります。

 桜田門外で主を、仲間を置いて逃げるというのは、武士の習いから考えれば万死に値する行為。それでも死ぬこともできず、もちろん武士に戻ることもできない無元にとって、僧としての暮らしがどのようなものであったか、想像に難くありません。
 今回のもう一人のゲストキャラクター、草莽の志士として血気に逸る青年武士・村上が、無元のことを軽侮したのも、無理もない話ではあります(もっとも、その村上自身は武士の生まれではないというのがまた皮肉なのですが…)

 そんな無元にとって、機巧は、桜田門での機巧の恐怖を思い起こさせることはもちろん、それ以上に、己の過去の「罪」を否応なしに認識させるもの。
 ヒヲウの機巧を目にしたときに、無元の抱いた感情は、単純な恐怖というものではなかったのでしょう。

 そしてその無元を、さらに過去に直面させるのが、桜田門の変にも加わっていた風陣・クロザル。華と雪を狙うクロザルは、家族に武士としての生き恥を晒す無元のことを告げると脅し、無元に手引きをさせます。
 一度はそれに屈した無元(それを知った華の「あなたは、あなたはもう武士ではありませぬ!」という台詞が二重の意味で重い!)が、ヒヲウたちの危機に、己を取り戻すというのは、これはドラマとしては定番の展開ではありますが、しかし、そこにヒヲウの涙と無元の叫びを絡め、ぐいぐいと盛り上げていくのは脚本と演出の妙というものでしょう。

 そして何よりも圧巻はその後の場面。
 ヒヲウたちを逃がすため、ただ一人その場に残った無元を、「お前武士じゃない」と嘲るクロザル。それに対する無元の言葉は…
「武士が捨てられるものならどんなに良かったか…だが武士はどこまでも追ってくる。武士とは人の世の正しき道が見えた時、己の欲を殺し、それを従える者のこと。拙者は胸の内の声に従う。あの子らをむざむざ殺させはせん!」

 武士は単なる身分ではなく、主義主張でもない。武士とは生き方であり――だから、逃げられない。
 逃げられないものであれば、それに向き合い、全うするしかない。

 それは、一面救いであり、一面呪いとも言えるでしょう。
 しかし、彼がヒヲウに遺した言葉が、「もう、怖くない」だったことは、一つの救いがそこにあったことは間違いありません。
 そしてまた、村上が後に名前を変えたとき、無元の本名と同じ名を選んだことも…(村上――後の相楽総三の運命を思えば、それは大いなる皮肉とも言えるのですが)。


 いずれにせよ、武士、武士道という言葉をあまりに無自覚に扱う作品が反乱している中で、ここまで武士という存在を掘り下げた物語が――個人的にはこのような言い方はしたくありませんが――子供向けアニメで描かれたというのは、驚くほかありません。

 これは最終話まで紹介した後に述べようと思っていたのですが、本作は、メインライターである會川氏とそれ以外の諸氏で、時代劇としての味わいが驚くほど異なります。
 それはそれで問題ではありますが、會川時代劇の精華をこうして味わうことができるのを、まずは感謝すべきでしょうか。


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